エネルギッシュな姿に惹きつけられる!
紀伊國屋書店 (2013-09-28)
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「駆ける少年」(1985イラン)
ジャンル青春ドラマ
(あらすじ) 1970年代のイラン。孤児の少年アミルは、浜辺の廃船に住みながら廃品や空き瓶の収集、水を売りながら生活していた。同じ年頃の少年達と遊ぶのが大好きで彼はいつも駆けまわっていた。そんなアミルの憧れは、大きな旅客船や大空を自由に飛ぶ飛行機、華やかな外国の雑誌だった。ある日、雑誌を買った時に、文字も読めないのに買うのか?と言われショックを受ける。
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(レビュー) バイタリティに溢れた少年の生き様を雄大なロケーションの中に活写した青春映画。
監督・脚本はアミール・ナデリ。彼はイラン出身の監督であるが、今作を完成させた後にニューヨークへ移住し、そこで現在でもミニマルな映画作りを実践している。先頃は日本人俳優、スタッフの協力を得て
「CUT」(2012日)という作品を撮り上げた。イランからアメリカ、そして日本と、中々フットワークの軽い映像作家である。
尚、本作は主人公の名前から、おそらく監督自身の自伝的要素が強く入ったドラマのように思う。実際にナデリ監督も幼少期に両親を失い、一人で廃船に住んでいたという。そんな監督の強い思い入れが映画を神々しいものにしている。
孤児が貧困にあえぐドラマは、正直な所、よくあるドラマでさして目新しさはない。ただ、主演した子役の活き活きとした表情、力一杯走る姿、大空を自由に飛び回る飛行機を見る時のキラキラと輝いだ目など、非常に印象的だった。どうやら映画に出てくる子供たちは皆、演技初挑戦らしい。この生々しさが映画を愛おしいものにしている。
また、普通に描けばひたすら重苦しくなるドラマを、アミルの前向きなキャラクターを介在することで、作品全体をどこか屈託なく見れるようにしているのも好印象である。
例えば、アミルと友達は走る電車を追いかけるゲームをする。ルールは単純で、電車が目の前を通り過ぎると同時に一斉に走り出し、電車に最初に触った者が勝ちとなる。結局、子供たちの中でも一番体の大きい年長者と思しき少年が勝者となるのだが、アミルはそれでも電車を追いかけるのを止めない。友達からどうして走るんだ?と聞かれると、「自分の力を試したかったんだ」と答える。実に上昇志向の強い少年である。
また、アミルは文字の読み書きが出来ない非識字者である。しかし、外国の綺麗な本が大好きで、そこに載っている写真を見ることを密かな楽しみとしている。ところが、ある日、雑誌売りの男に、今時文字を読めない子がいるなんて‥と言われてしまう。この言葉を聞いたアミルは、小学校に入学して読み書きの勉強に発奮する。ひたむきに努力する姿は実に健気で美しい。
そして、何と言ってもこの映画で印象的だったのが、アミルの駆け回る姿である。先述した電車との追いかけっこ、友達と空き瓶を争奪する競争、水泥棒の追跡、クライマックスの天然ガスが燃え盛る中での氷の争奪戦。常に彼は走っている。特に、クライマックスは灼熱の炎をバックにひた走るアミルの姿がエネルギッシュに活写されている。正に邦題の「駆ける少年」そのものである。何だか元気を貰えたような気がした。
このようにアミルは孤独と貧困に落ち込むことなく、常に前を向いて前進している。そこがこの映画の良い所である。見てて思わず彼を応援したくなってしまう。
カメラも要所で実に美しい映像を切り取っている。大海を背景にした開放感に溢れた情景と小さなアミルの対比が素晴らしい。決してお金がかかっている映画ではないのに、これだけ豊饒な鑑賞感をもたらしてくれるのは、ひとえにロケーションの巧みさと撮影監督のセンスの賜物だろう。見事な画面設計である。