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さざなみ

老夫婦のすれ違いをシリアスに綴った作品。ランプリングの演技が絶品。
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「さざなみ」(2015英)star4.gif
ジャンルロマンス
(あらすじ)
 ジェフとケイトは、5日後に結婚45周年の記念パーティを控えていた。そこにスイスの警察から1通の手紙が届く。50年前にジェフと登山中にクレパスに転落して亡くなった当時の恋人カチャの遺体が昔のままの状態で発見された‥と書かれていた。ジェフはカチャへの愛を蘇らせていく。ケイトはそんな夫に次第に不信感を募らせていく。

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(レビュー)
 老夫婦の関係破綻の危機をシリアスに綴った人間ドラマ。

 かなり丁寧な演出が貫かれているので、じっくりと腰を据えて見れる作品である。監督・脚本は本作が長編3作目という俊英だが、かなり手練れた手腕を感じさせる。尚、過去の2作品は未公開なので、実質これが初めて日本で公開された作品ということになる。今後が気になる監督である。

 そして、何と言っても本作の見所はキャスト陣の好演、これに尽きる。
 ケイトを演じたC・ランプリング、ジェフを演じたトム・コートネイ。夫々に見事な演技を見せている。特に、C・ランプリングは微細な心情変化を素晴らしい演技で表現しており見事の一言。彼女はこれまでは大きな賞に絡むような作品とめぐり合ってこなかったが、元々演技力の高い女優であることは周知の事実である。それが、この「さざなみ」という作品で大きくピックアップされたということで大変嬉しく思う。彼女は本作で世界各地の映画祭で主演女優賞を獲得している。

 特に、ラストの表情は必見である。ジェフを突き放すような行動と表情。そこには、どうあがいても夫の心を繋ぎ留めることが出来ないという諦め。パーティーのスピーチを無難にこなしてしまったことに対する腹立たしさ。混然一体となったケイトの複雑な怒りの感情が透けて見える。
 と、同時に自分は憐れさも感じた。どうしてそんな夫を許せないのか‥。彼女はそんな自分自身が嫌になったのではないだろうか?

 また、ここで描かれる物語は、よくある熟年夫婦の離婚の危機であるが、そのきっかけとなるのが、夫の過去の恋人の<死体>だった‥という所が大変ユニークである。ケイトは、この過去の恋人カチャに嫉妬するわけだが、これは男性にはない女性特有の残酷な問題を暗に照射しているように思う。

 というのも、カチャは50年前から氷の中で眠り続ける女性である。死んではいるが、当時の美しさを保ったままでいる。それはつまり、ジェフにとってみれば永遠に年を取らない<永遠(とわ)の恋人>なわけである。それに対して、現代に生きるケイトは年齢を重ね、女性としての(少なくとも外見上の)魅力は失われてしまっている。過去の美しい想い出のまま永遠に眠り続けるカチャには、どうしたって勝ち目がないのである。男性にはない女性ならではの<美>に対するこだわり。それがこのドラマの設定の中に見て取れる。

 そして、後半で明らかになる、カチャが持っていてケイトが持っていないもの。これもケイトの嫉妬には大きく関係している。これも男性にはない、女性特有の”苦悩”である。おそらくケイトは相当ショックだったことだろう。見ている自分もこれが発覚した時にはケイトが可愛そうになった。

 ただ、個人的な感想を言わせてもらうと、ジェフのカチャへの執着がやや度を過ぎたものに思えなくもなかった。確かに一緒に登山をしている最中に死んでしまった恋人を忘れられないという気持ちは分かる。しかし、目の前の妻に少しでも気を使うのであれば、ここは思い出を懐かしむくらいに収めるべきだったのではないか‥。少なくとも結婚45周年のパーティーを控えている微妙な時期では、波風を立てるべきではなかったのではないか‥と思った。氷の中のカチャをどうしても一目見たいというのであれば、時間を空けてから会いに行けばいい。それを就寝のベッドの中で「彼女と結婚するつもりだった」などと告白するから、余計ケイトの気持ちを逆撫でるのである。

 一方のケイトもケイトである。夫の思い出に少しは寛容になってもいいのではないかと思った。45年間、一緒に暮らしてきた歳月は確かに大きい。裏切られた‥という思いも分からなくはない。しかし、45年間彼らの間には何のすれ違いもなかったのだろうか?浮気の一つや二つくらいあったのではないのだろうか?その時の免疫ができていれば、今回の問題はここまで大きくならなっかように思う。

 要は、夫婦だって所詮は赤の他人である。隠し事はあって当然であるし、喧嘩があればその都度どうにか修復して何とかやって行かなければならないのである。お互いに我慢することが大切なのであるが、それがこの夫婦は出来なかった‥というふうに写った。

 シナリオ上、写真や犬、小道具の使い方が抜群に上手かった。写真はケイトたちの夫婦生活の空疎を表し、ペットの犬は彼らの間に子供がいないという現実を表している。これがドラマのバックストーリーの説明の役割を果たし、シナリオの削ぎ落としに成功している。映画の尺は全体で約90分。実に流麗且つ無駄のない脚本で感心させられた。

 また、本作はBGMがほとんどかからない。自分が確認した中では、ケイトとジェフが車で町に出かけるシーンで少しだけかかった程度である。その代りにラジオやパーティー会場で流れる歌曲がBGMの役割を果たしている。夫々の曲にはきちんとドラマ上の意味があって、例えばラストの「GO NOW」という曲などは完全にケイトの心情を代弁している。選曲の妙も本作の聴き所だろう。

 ところで、氷漬けになった死体というと、個人的にはF・ジンネマン監督、S・コネリー主演で作られた「氷壁の女」(1982英)という映画を思い出してしまう。この映画は登山に出かけたワケあり男女とガイドの男の愛憎を描いたロマンスサスペンスで、やはり氷漬けになった男の死体が出てくる。実は、この死体には40年前の”ある恋”が関係しているのだが、この設定は本作の設定とよく似ていると思った。尚、この映画はF・ジンネマン監督の遺作である。

 また、この手のコールドスリープという設定はSF映画ではお馴染みのギミックである。M・ギブソンが冷凍装置の冬眠から50年ぶりに現代に蘇って新しい恋に生きる「フォーエバー・ヤング/時を超えた告白」(1992米)や、氷の中で眠っていた日本の侍が現代のロスに蘇って悪人退治をする「SF ソードキル」(1984米)なんていう怪作を思い出した。

[ 2016/07/09 02:55 ] ジャンルロマンス | TB(0) | CM(0)

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