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ぼっちゃん

秋葉原無差別殺傷事件をベースに敷いた青春ドラマ。
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「ぼっちゃん」(2012日)星3
ジャンル青春ドラマ・ジャンルサスペンス
(あらすじ)
 孤独な非正規社員の梶は、携帯の掲示板サイトに日々の胸中を書き綴るだけの寂しい日々を送っていた。彼が住む寮には、素性の知れないワケあり青年・岡田と、突然眠ってしまう奇病の持ち主・田中が住んでいた。梶は岡田を前にすると萎縮してしまうが、田中にだけは何故か対等の付き合いが出来た。どうにか仕事にも慣れ始めた頃、梶は岡田から突然ドライブに誘われる。

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(レビュー)
 2008年に起こった秋葉原無差別殺傷事件をモチーフにして作られた青春映画。孤独な青年の心の内を、周囲の人間関係を交えて描いた作品である。

 まず、初めに言っておくが、この映画は秋葉原無差別殺傷事件をベースに敷いているが、まったくのフィクションである。実際の事件背景は全てカリカチュアされており、主人公の梶が非正規社員であることと、掲示板サイトに頻繁に書き込みをしていたこと。作業服が紛失したこと、梶が卑屈な性格だったということを除けば概ね創作である。梶の同僚である岡田や田中のキャラクターは映画独自のキャラクターであるし、彼らを交えた愛憎ドラマも完全に作り物である。したがって、本作は事件そのものをルポルタージュする映画ではなく、あくまでそれをきっかけにした創作物という捉え方をした方がいいと思う。

 ただ、こうした解釈をした上でも、事件のことを考えると、なるほど‥と思える所がたくさんあった。
 まず、事件を起こした動機である。梶は孤独だった。友達も彼女もいなかった。ネットに書き込みしても誰にも相手にされなかった。夢もない。仕事もない。金もない。この閉塞感、孤独感が負のエネルギー。つまり今回のような凶行に繋がったのではないか‥ということは容易に想像がつく。
 そういう意味では、本作は案外、事件の核心を得ているような気がした。

 印象的だったのは映画のラストである。梶は岡田と共に事件を起こそうと秋葉原駅の前で車を止める。助手席に座っていた岡田が車のサイドブレーキを解除して梶に歩行者に突っ込むよう命じる。しかし、梶はブレーキを戻して映画は終わる。

 ここだけ見ると、梶がかろうじて犯行に及ぶギリギリのところで踏みとどまった、というふうに見える。しかし、今回たまたま未遂に終わっただけで、これから先も彼の人生は真っ暗闇だと考えると、いつ再びそのサイドブレーキに手をかける日が来てもおかしくない。その時こそ本当に事件は起こるのだろう。
 このラストにはそんな不安と怖さが感じられた。現代社会に生きる一部の若者たちの”行き止まり”な人生。先に進むことも引くこともできない人生。それが実感される。

 この映画は、梶のキャラクターが徹底的にネガティヴに描かれているので、決して感情移入できる作品ではない。梶は暗くて卑屈で斜に構えて、中々他者に対して心を開かない、そんな独りよがりな青年である。このネガティヴさは、見る人によっては不快感を覚えるかもしれない。
 正直、自分も見てて辛かった。梶の不器用な人間性に嫌気がさした。見てるこちらが鬱になりそうだった。

 ただ、そんな中で、この映画はエンタメとしての配慮もしていて、時折コメディトーンを入れている。そこが、自分にとってはかすかな救いになった。
 例えば、梶と親しくなる田中のキャラは大変愛らしい。彼も梶同様、完全に見た目は”負け組”の部類に入るのだが、性格は梶ほど刺々しくない。周囲にからかわれても大人しくそれに準じるし、ソフトボール部に入るなど他者とコネクトしようという気持ちも持っている。第一に田中は梶と違って根が素直で優しい。中盤から登場するヒロイン、ユリが彼に惹かれるのも何となく理解できた。この田中というキャラは絶妙な塩梅でコメディリリーフ的な役割を果たしている。彼が登場することで、本作は幾分トーンが和らぐ。

 一方、シナリオ上、リアリティを欠くシーンが幾つかあり、それらに関しては見てて不自然に映った。その多くは梶のもう一人の隣人、岡田に関するものである。

 彼は過去に”ある事件”を起こした犯罪者である。一見するとイケメンで彼女に不自由しない遊び人ふうに見えるが、中身は完全に頭のイカれたサイコパスである。死体を”柔らかい鉄”と評する辺り、中々のものだが、では彼が起こした数々の殺人は社会的な事件にはならなかったのだろうか?普通であれば警察の捜査が入るものだが、そうした描写は本作の中では一切見られなかった。これは見てて非常に不自然に映った。

 また、彼はユリを執拗に追いかけるが、その理由も不鮮明に思えた。その理由となるプレマイズが薄い。
 あるいは、ユリを連れた田中を追いかけ回すシーンがある。ここももっとスマートに演出できなかったのだろうか?ユリが勤める病院に立ち寄る必要は無かったように思うのだが‥。見てて単純に回りくどいと思った。

 監督・脚本は大森立嗣。「ケンタとジュンとカヨちゃんの国」(2009日)「まほろ駅前多田便利軒」(2011日)「さよなら渓谷」(2013日)といった多彩な作品を輩出している俊英である。本作を含め少々クセを持った作風を信条とする作家なので、決してメジャー志向とは言い難い。しかし、彼の作品に出演する俳優は軒並み好演しているのは、やはり演出に力があるからだろう。「ケンタ~」では安藤サクラが、「さよなら渓谷」では真木よう子が見事な演技を披露していた。

 本作で言えば、梶を演じた水澤神吾の熱演が目を引いた。感情を炸裂させる時の雄たけびの痛々しさといったらない。
 特に、ラストの叫びが胸に迫ってきた。喧騒の中、彼の叫びに誰も耳を貸さないという現実は、まさに本作のテーマを如実に出ている。残念ながら見た目はスター性皆無だが、ちょっとした癖のある役をやらせれば良い味を出せる俳優だと思う。名バイプレーヤーとしてどんどん活躍していってほしい。
[ 2016/08/08 00:42 ] ジャンル青春ドラマ | TB(0) | CM(0)

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