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式日 SHIKI-ZITSU

庵野監督の美的感性がいかんなく発揮されたアート作品。
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「式日 SHIKI-ZITSU」(2000日)星3
ジャンルロマンス
(あらすじ)
 描くべきテーマを失った映画監督(カントク)は、ある日線路に寝そべる少女と出会った。彼女は明日が自分の誕生日だと言う。興味を持ったカントクは彼女をカメラに収めながら次第に惹かれていくのだが‥。

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(レビュー)
 大ヒットアニメ「新世紀エヴァンゲリオン」の庵野秀明監督が撮った長編実写映画2作目。

 過去にトラウマを抱えた少女と自信を喪失した映画監督の1カ月に渡る奇妙な交流を、繊細なタッチで描いた恋愛ドラマである。

 全体的に映像が凝っていて、かなりアート志向の強い作品になっている。アニメーションにおける映像とは、「画」そのものを如何様にも整えられるため、実写映画よりも作家としてのセンスが問われるように思う。この視覚的な”美”が物を言うアニメーションという世界で活動してきた庵野監督の強いこだわり。それが随所に感じられた。

 もう一つは、プロダクションデザインの仕事ぶりにも感心させられた。
 少女が住む廃墟と化したビルは、まるで彼女の脳内世界を具現化したような幻想的なオブジェによって塗り固められている。余りにも非現実的な世界観であるのは、彼女の心が現実を遠ざけている証であり、この刺激的な美術には目を奪われてしまった。

 例えば、彼女の寝室が何度が印象的に登場してくるが、カントクが初めてその敷居を跨ぐシーン。部屋一面が水浸しになっている。そして天井からは何十本という赤い傘がぶら下がっている。この世の物とは思えぬ美しさと妖しさを放ちながら少女の脳内小宇宙が幻想的に具現化されている。
 この他にもマネキンが並べられた部屋、真っ白い部屋に赤色の小物で彩った”電話の部屋”、巨大なNゲージを敷き詰めた部屋等、ハイ・アートな美術が複数登場してくる。

 シーンごとに変わる少女の服飾やメイクも然り。様々にデコレーションされた映像は微細にして過激。そこが鼻に付くという意見もあろうが、ミニマムな分、余り嫌らしさを感じさせない。

 実写とアニメーションの融合も出てくる。このあたりは次作「CUTIE HONEY キューティーハニー」(2003日)で更に彩度を上げて実践されているが、今回は割とダーク調なアニメとなっている。
 ただ、これに関しては、正直、全体から浮いてしまっている印象を持った。「CUTIE HONEY~」は大仰なコメディなので自然にアニメーションも溶け込んでいたが、本作は極めてシリアスな作品である。そこに突然アニメが挟まってしまうと、どうしても違和感を拭えない。余りにも奇をてらいすぎて下手をうってしまったという感じである。

 一方、ドラマはというと、残念ながらこちらは今一つ‥といった感じで惜しまれる。
 心を病んだ少女の話なのだが、延々と鬱病患者の愚痴を聞かされているみたいで、見ていて余り良い気持ちはしない。これでドラマ的な起伏があればまだ見ていられるのだが、展開が鈍い上に退屈するのが致命的だ。今作はストーリーで見せるタイプの映画ではない。それは分かるのだが、そうであればもっと時間を長く感じさせない演出的な工夫、あるいは人物の魅力を引き立たせるような作劇が必要であろう。

 そもそもの話をしてしまうと、今回のヒロインは「新世紀エヴァンゲリオン」の惣流・アスカ・ラングレーに重なって見えてしまう。その生い立ちや置かれている環境、愛を欲するがゆえに精神を崩壊させてしまう過程等。アスカのバックボーンとほとんど変わらない。
 序盤こそ、奇抜なファッションやミステリアスな言動に惹きつけられたが、彼女が母親の留守電メッセージを流すシーンで、何となくそんな臭いを感じ取ってしまい、それからは次第に魅力が失われてしまった。

 庵野監督の描く女性像はひどく類型化されていて、見てて余り面白味を感じないのは俺だけだろうか?
 先日見た庵野監督の「シン・ゴジラ」(2016日)にも、実は「エヴァ」のヒロインである綾波レイとアスカは出ていたと思う。市川実日子が演じるゴジラ対策チームの紅一点のキャラが綾波レイ、石原さとみ演じるアメリカ大統領特使がアスカ。対照的なヒロイン像がそんな印象を持たせてしまう。
 加えて、市川実日子がラスト付近で初めて笑顔を見せるのは、やはりTV版「新世紀エヴァンゲリオン」第6話のラストで見せたレイの笑顔に重なって見えてしまう。
 もっとも、今回の「シン・ゴジラ」は、庵野監督自身が確信犯的に「エヴァ」のオマージュをやっているような節があるので、このヒロイン像も敢えて狙ってやっているという感じがしなくもないが‥。

 話は逸れてしまったが、今作のヒロインも何だかどこかで見たことがあるような造形で、個人的には余り新味を感じなかった。

 少女を演じるのは、かのスティーブン・セガールの実娘、藤谷文子。彼女は今作の原作小説も手掛けている。パッと見て美人というわけではないがハーフならではの特徴的な顔立ちをしていて、その外見、そしてラディカルな演技にはかなり惹きつけられた。年相応に奔放に振舞ったかと思えば、山口弁丸出しで激昂したり、襟を正したスーツ姿に着替えたり、パンクな出で立ちで歌唱したり。ともすれば彼女のPVなのではないか?と思えるほど強烈な魅力を振り撒いている。キャラクターそのものは余り関心を持てなかったが、藤谷自身の魅力はよく出ていると思った。

 一方、カントクを演じるのは実際の映画監督である岩井俊二である。決して演技が上手いとは言えないが、彼女を包み込むような父性は上手く出ていたと思う。
 この役は映画を撮れなくなってしまった映画監督という役所である。思うに、このキャラクターは大ヒット作「エヴァンゲリオン」の監督というプレッシャーに押しつぶされそうになっている庵野自身そのものではないだろうか?だとしたら本人が演じてもおかしくはない役所である。ただ、スクリーン映えするビジュアルを持った本物の映画監督ということで岩井監督にオファーがいったのだろう。このキャスティングもこれで正解だったように思う。
[ 2016/09/11 00:49 ] ジャンルロマンス | TB(0) | CM(0)

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