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ウォールフラワー

壁を壊せ!
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「ウォールフラワー」(2012米)星3
ジャンル青春ドラマ
(あらすじ)
 内向的な少年チャーリーは高校デビューに失敗し、孤独な学園生活を送っていた。ある日、フットボールの観戦中に陽気な上級生パトリックに勇気を出して声を掛ける。意外にもパトリックは気さくに応えてくれて、彼の義理の妹サムを紹介してくれた。こうしてチャーリーは、彼らと充実した高校生活を送るようになる。そして、彼はサムに好意を寄せていくようになるのだが…。

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(レビュー)
 内気で孤独な少年の学園生活をカジュアルな映像と一抹のほろ苦さを交えて描いた青春映画の佳作。

 同名原作(未読)の映画化で、原作者本人が監督を務めている。尚、製作には俳優のJ・マルコビッチが名前を連ねている。

 いわゆる低予算のインディペンデント映画だが、所々の映像演出にセンスがあり余り安っぽさを感じさせない。原作者であり監督も務めたS・チョボスキーの手腕は中々で、作品自体はとても洗練されていると思った。

 ストーリーも、チャーリーのモノローグで牽引するスッキリとした構成で大変見やすい。いわゆるスクール・カーストの最底辺に位置する主人公が周囲の優しい人々に囲まれながら次第に充実した学園生活を送るようになる‥といったオーソドックスなドラマとなっている。

 但し、劇中で時々チャーリーが『誰か』に宛てた手紙を音読しているのだが、この『誰か』は映画を最後まで見てもよく分からない。見終わった後に少しモヤモヤしてしまう人もいるだろう。どうやら原作も同じような構成になっているらしい。

 自分は、この『誰か』は『過去のチャーリー』なのではないかと想像した。かつての孤独な自分。「ウォールフラワー(壁の花)」として目立たぬ存在だった自分。そんな過去の自分に宛ててこの手紙を書いていたのではないだろうか。

 こう考えると映画のラストも合点がいく。ラストは手紙の相手に別れを告げて終わる。これは過去の自分と決別した‥ということを意味しているのだろう。過去を捨て未来に向かって新しく生まれ変わるんだ‥という強い意志。それがこのラストの手紙から感じられた。前向きで実に清々しい結末である。

 もちろん、この『誰か』は見た人それぞれの解釈があっていいと思う。それを探し当てることが、このドラマのミステリーであり、映画の味わいに深みを与える”仕掛け”にもなっている。

 今回が初演出となるS・チョボスキーだが、中々どうして。手練れた構成、語り口で観客を上手く揺さぶるあたりに、かなりの才能が感じられた。本作以降、新作の情報がまだ来てないが、今後どのように映画と関わって行くのか、少し楽しみである。
 
 ただ、少しだけ苦言を述べるなら、本作はかなりダークな一面も持っていて、例えば後半で明らかにされるチャーリーのトラウマ、サムたちが置かれてる状況には、現代社会の”闇”とも言うべき、児童虐待やドラッグや同性愛といったネガティブな問題が隠されている。この辺りは見る人によって好き嫌いが分かれるかもしれない。個人的には、現実を直視させる監督の気概には感じ入ったが、明朗快活な青春映画を望む人には後半から途端に入り込めなくなってしまうだろう。このあたりはもう少し抑えても良かったのではないか‥そんな気がした。

 尚、個人的には映画のタイトルもお気に入りである。この「ウォールフラワー(壁の花)」とはチャーリーのことを指している。彼はパーティー会場や学校の食堂、どこにいても壁際に座る「ウォールフラワー(壁の花)」である。決して皆が集まる中心には入って行かない。
 映画前半、パーティー会場の真ん中で踊るサムたちにチャーリーが歩み寄って行くシーンがある。何気ないシーンだが、ここは印象深かった。余りにも楽しく踊るサムたちを見て、おそらくチャーリーは自然と身体が動いてしまったのだろう。ああいふうに自分も楽しく踊ってみたい‥という憧れが、彼を前進させたに違いない。チャーリーが「ウォールフラワー(壁の花)」を脱した瞬間のように思えた。

 また、『壁』というのは本作の重要なモチーフになっているような所があり、それは主題歌曲でもあるD・ボウイの「ヒーローズ」にも込められている。
 この「ヒーローズ」は中盤とエンディングに2度かかる。ご存知の通り、D・ボウイは癌との闘病の末、先日亡くなったが、この時ドイツの外務省はこの曲がベルリンの壁の崩壊に一役買ったということを公式に発表した。『壁』を壊すというのは、人生で言えば、新しい自分に生まれ変わるということである。
 しかして、エンディングでかかる「ヒーローズ」である。ここでこの名曲が流れると、チャーリーは今正に自分の『壁』を壊して未来へ羽ばたいていったんだなぁ‥という思いになって胸が熱くなってしまう。
 選曲を含め、このカタルシスを創出したチョボスキーの手腕はホンモノと言う気がした。

 キャストでは、サム役を演じたエマ・ワトソンが印象に残った。「ハリー・ポッター」シリーズのハーマイオニー役でデビューした子役が、今ではすっかり一人前のレディになって女優活動に勤しんでいる。彼女は本作でかつての可愛らしいイメージから完全に脱却したと言っていいだろう。彼女の今後の活躍も楽しみである。
[ 2016/09/26 00:38 ] ジャンル青春ドラマ | TB(0) | CM(0)

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