怠惰な暮らしを送る無職の若者たちの姿を淡々と綴ったフェリーニ初期時代の佳作。
IVC,Ltd.(VC)(D) (2010-12-17)
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「青春群像」(1953米)
ジャンル青春ドラマ
(あらすじ) 女遊びの激しいファウスト、真面目なモラルド、不倫中の姉に金をせびるアルベルト、作家志望のレオポルド、歌が上手いだけが取り柄のリカルド。5人はこの町で一緒に育った幼馴染である。このたびファウストがモラルドの妹サンドラと結婚した。2人の新婚旅行を見送った4人はファウストの女癖の悪さを少しだけ心配したが、笑顔で旅立っていく二人を祝福した。しかし、その心配は現実のものとなってしまう。新婚旅行から帰ってきたファウストは、新しい就職先で早速、店主の妻に色目を使い、これが原因でクビになってしまう。
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(レビュー) 巨匠F・フェリーニ監督が自伝的要素を交えて描いた青春映画の佳作。
物語の視座は基本的にモラルドにあるが、描かれるドラマは周囲の悲喜こもごもで、全体的にまとまりのない作品となっている。群像劇なのだから仕方がないとはいえ、これだけ取り留めもないドラマが延々と垂れ流されると余り興味も持てなくなってしまう。それがリアルだと言われれれば確かにそうなのだが、ドラマ的には盛り上がりに欠ける。
そんな中、若者たちが冬の海で戯れるシーンは印象に残った。
おそらく皆が今の貧しい暮らし、夢も希望もない退屈した日常からの脱出を願っているのだろう。しかし、そう思いながら外の世界に出ていく勇気、行動力はない。広大な海を眺めるだけで終わる。その海の先に出て行こうという者は誰一人としていないのである。ハンパ者の心情を非常にダイレクトに表現したこのシーンは、モノクロの美しい映像も相まってどこか虚無性を誘発する。
自分はこのシーンを見て、何となくJ・ジャームッシュ監督の「ストレンジャー・ザン・パラダイス」(1984米西独)の寒々しいフロリダの海のシーンを連想した。そう言えば、「ストレンジャー~」も男女3人の虚無的な日々を描いた青春映画だったっけ‥。
ラストシーンも印象に残った。モラルドの旅立ちを描く感動的なシーンなのだが、決してフェリーニはあざとく盛り上げようとはしない。淡々と切り取るのみで、モラルドの立志をどこか虚無的に描いて見せる。
おそらくこの時のモラルドは、どこへ行くか決めないまま汽車に乗ったのではないだろうか。ココではない何処かへ‥。その一心で離れて行ったに違いない。だから、若者の”旅立ち”と言っても、このラストからは決してカタルシスは感じられない。
そして、ここで思い出されるのが、ファウストが妹と結婚した夜、モラルドが道端のベンチに寝転がって「旅にでも出るか‥」とつぶやくシーンである。彼はずっとこの町を出たい‥そう思っていた。そして、その願いがようやくこのラストで実現したわけである。
また、このラストシーンではモラルドを見送る少年が登場してくる。この存在も中々味わい深い。
この少年はモラルドとすでに面識があり、最初に出会った時にはモラルドに”見送られる側”だった。それがこのラストシーンでは少年が”見送る側”と立場を逆転させている。この立場の逆転がこのシーンを一層味わい深いものにしている。
見ている最中は、取り留めもない日常の連続で余り面白いとは思わなかったが、このラストシーンでこの映画は一気に引き締まった感じがする。そういう意味では、さすがはフェリーニである。白眉のエンディングと言えよう。
尚、映画賛歌に溢れた名作「ニュー・シネマ・パラダイス」(1989伊仏)の中に本作の一部が引用されている。
ファウストの浮気を知って失踪したサンドラを探すためにモラルドたちが車に乗って方々を巡るというシークエンス。その一場面で、彼らが道端であくせく働く労働者たちを馬鹿にするというシーンが出てくる。モラルドたちが乗った車がエンストしてしまい、怒り心頭の労働者たちに追いかけ回される‥というユーモラスなシーンとなっている。これが「ニュー・シネマ・パラダイス」の中に登場してくる。気付く人には気付くだろう。