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レヴェナント:蘇りし者

この映像世界にドップリと浸かった。ただし疲労感がハンパない。
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「レヴェナント:蘇りし者」(2015米)星5
ジャンル人間ドラマ・ジャンルサスペンス
(あらすじ)
 19世紀初頭のアメリカ北西部。狩猟の旅を続ける一団が先住民の襲撃を受けて半壊した。ガイド役を務めるベテラン・ハンター、グラスも命からがら逃げ延びるが、途中でハイイログマに遭遇して重傷を負う。一行を率いる隊長は、傷ついた彼を担いで山を越えるのは困難と判断して止む無く置いていくことにした。そして、彼を看取る役目をグラスの息子ホーク、グラスを慕うブリジャー、過去の因縁からグラスを憎々しく思っているフィッツジェラルドの3人に託した。

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(レビュー)
 愛する家族を失った男が大自然の中でハードなサバイバルを繰り広げるアドベンチャー・ドラマ。

 同名原作2度目の映画化で、一度目は1971年に「荒野に生きる」(1971米)というタイトルで映画化された。長らくソフト化されておらず幻の映画とされていたが、今回のリメイクに伴いDVDが発売された。監督はアメリカン・ニュー・シネマの傑作「バニシング・ポイント」(1971米)を撮ったR・C・サラフィアン、主演はR・ハリス。復讐に燃える男のイメージにはピッタリの俳優である。未見なのでいつか観てみたい。

 尚、本作の主人公グラスは実在した人物である。原作は彼の史実を元に書かれた小説で、どこまで事実に即しているのかは定かではないということである。ただ、少なくともグラスの復讐劇は本当にあったということだ。

 さて、本作は今年のアカデミー賞で監督賞、主演男優賞、撮影賞の3冠を受賞し大きな話題となった。
 監督のA・G・イニャリトゥは去年の「バードマンあるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」(2014米)に続き2年連続の受賞。撮影のE・ルベツキも「バードマン~」に続き受賞している。しかも、彼は一昨年に「ゼロ・グラビティ」(2013米)でも受賞しているので、なんと前代未聞の3年連続受賞という快挙を成し遂げている。

 そんなわけで、この映画の大きな見所は、まず何と言っても映像だろうと思う。
 ルベツキは作品ごとに様々な撮影スタイルをこれまで試みてきた。「ゼロ・グラビティ」では宇宙空間に漂う女性パイロットの孤独なサバイバルを最新鋭のデジタル技術を駆使して表現していた。続く「バードマン~」では驚異の全編疑似1カットを敢行し高い評価を得た。そして、本作では雄大な自然美を”これでもか!”というくらい画面に浩々と映し見る者を圧倒する。

 撮影用語で”マジック・アワー”というのがある。黄昏時の数十分が最も美しい光の中で撮影できるということで、写真家、映像作家が好んでこの時間帯を狙って撮影をする。今回ルベツキはこのマジック・アワーにこだわって撮影したそうである。そのかいあって、各所の自然風景は筆舌に尽くしがたい程の神々しさを放ち、正に映像叙事詩と称するにふさわしい作品となっている。

 本作の映像を見て、巨匠T・マリックが撮った「天国の日々」(1978米)という作品を思い出した。あれもマジック・アワーにこだわって撮影された作品で、撮影監督のN・アルメンドロスはアカデミー賞で撮影賞を受賞した。
 個人的には、今回の「レヴェナント」はそれ以来の衝撃だった。CGで作られた映像ではなく本物の映像で勝負したルベツキの挑戦を大いに評価したい。

 また、本作の冒頭の長回しもかなりテクニカルな撮影をしており、こちらは明らかに前作「バードマン~」で試みた撮影作法を踏襲している。狩猟隊と先住民の戦いが流麗なカメラワークで再現されており中々の迫力が感じられた。

 かように本作の撮影は細部に渡ってこだわったため、実に9カ月もの長期間を要したという。その間には様々なトラブルも起こり、雪を求めて撮影場所が変更になったり、出演者と監督の間で喧嘩になったり、製作費が膨らんだり等、完成までにかなり苦労したらしい。それでも諦めずに完成にこぎつけたのだから製作者たちの熱意には頭が垂れる。

 本作は俳優陣の熱演も大きな見所である。悲願のアカデミー賞主演男優賞を受賞したL・ディカプリオ、彼の敵役を演じたT・ハーディー。夫々に素晴らしい熱演を披露している。

 特に、ディカプリオの心血を注いだ演技は見もので、極寒の中でこれだけ無茶な撮影に耐えれば流石にオスカー受賞も納得するしかない。本作は彼の俳優としての大きな節目となる作品のように思う。それくらいの意気込みと覚悟が画面から感じ取れた。

 イニャリトゥの演出は、虚実入り混じった不思議なテイストを織り交ぜながら、過酷な大自然と些末な復讐心、欲心に駆り立てられる人々の対比をドラマチックに活写している。ここまで堂々としたスケール感のある作品は、氏のフィルモグラフィーの中でも特異である。画面から”貫録”みたいなものが感じられた。着実に巨匠としての道を歩み続けている。

 また、全体を通して教示的なメッセージが忍ばされているのもイニャリトゥらしい。
 自分は本作を観て「復讐するは我にあり」というのがテーマだと思った。この言葉は新約聖書に出てくる言葉で、復讐は自分でするものではなく神が下すもの‥ということを意味している。
 グラスが見せたラストの選択。そして、彼が途中で出会う先住民の男の生き様。更には、先住民の女を巡る因果応報的帰結。この辺りを考えてみると、この言葉の重みが増してくる。
 更に一歩踏み込んでこのテーマを解釈すれば、報復に明け暮れる現代の紛争世界をそのまま時代とシチュエーションを変えて表している‥とも取れる。復讐は一時のカタルシスは得られても、後には後悔と虚しさしか残らない‥。そんなメッセージが投げかけられているような気がした。

 ところで、そんな復讐心に駆られた、このグラスという男。あれだけ超人的な体力と精神力をどこに隠し持っていたのだろうか?自分は映画を観ながらずっと不思議に思えてならなかった。熊と戦っても死なないし、崖から飛び降りても平気。急流に流されても助かる。骨折した右足もいつの間にか治っている。正に不死身の男としか言いようがない。こうした極めて不自然なキャラクター性から考えるに、もしやこの物語全体が彼の今際の夢だったのではないだろうか‥。そんな風にも解釈できた。

 ここ最近のイニャリトゥの作品に言えることだが、彼は物語を寓話的な眼差しで捉えているような所がある。監督デビュー作「アモーレス・ペロス」(2000メキシコ)からすでにその傾向は伺えたが、「BIUTIFUL ビューティフル」(2010スペインメキシコ)以降、更にそれが強まったように思う。
 今回も極めて寓話的なテイストが入った作品で、実話を元にしているとはいえ、確実に最近のイニャリトゥの作家性が入っている。そこが他に類を見ない面白さに繋がっているように思う。

 尚、本作を見て連想した作品が幾つかある。
 まず、美しい画面ということで言えば、先述した「天国の日々」が挙げられる。どちらも素晴らしい”映像作品”である。

 この他に、グラスと先住民の男がブリザードに見舞われるシーンで、黒澤明監督がソ連で撮り上げた「デルス・ウザーラ」(1975ソ連)を思い出した。「デルス~」も相当過酷な撮影を敢行したらしいが、その中にこんな場面が出てくる。主人公である調査団の隊長とデルスが猛烈な吹雪に遭い、急遽茅葺小屋を作り、その中で一夜を過ごして何とか難を逃れる。このシーンも実際に激しい暴風の中で撮影されたが、それが本作のこのブリザードのシーンと重なって見えた。

 また、主人公がグリズリーに襲われながら決死のサバイバルをするというプロットは、S・ポラック監督、R・レッドフォード主演で撮られた「大いなる勇者」(1972米)を連想させた。過酷な深雪のロケーションというのも一緒であるし、入植民と先住民の対立というのも共通する背景だ。

 また、熊に襲われる話で言えば、A・ホプキンスがヒグマと格闘した「ザ・ワイルド」(1997米)という作品も思い出される。本作では流石に熊はCGで表現されていたが、「ザ・ワイルド」に登場する熊はリアルである。今では考えられないことであるが本物の熊を使って撮影された。尚、その熊は他の映画にも色々と出演しており、「バート」という名前でクレジットもされている。きちんと調教が行き届いたタレント熊である。
[ 2016/10/10 02:42 ] ジャンル人間ドラマ | TB(0) | CM(0)

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