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怒り

怒りは身の破滅を招くだけである
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「怒り」(2016日)star4.gif
ジャンルサスペンス・ジャンル人間ドラマ
(あらすじ)
 八王子で夫婦殺人事件が発生する。警察は逃走した犯人を全国に一斉手配するが、有力な情報を得られないまま時間だけが過ぎていった。それから1年後、千葉・東京・沖縄に素性の分からない3人の青年が現われる。風俗店で働いていた愛子は、漁港で働く父・洋平に千葉の実家に連れ戻され、そこで田代に出会う。東京の大手企業に勤めるサラリーマン優馬はゲイクラブで直人という青年と出会う。行く宛がないと言う彼を優馬は家に住まわせることにした。沖縄に引っ越してきた高校生の泉は、無人島で1人で住んでいるバックパッカー田中に出会い次第に惹かれていくようになる。

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(レビュー)
 ある殺人事件を起点とした3つの物語をドラマチックに綴った群像サスペンス。吉田修一の同名原作を「悪人」(2010日)の李相日が監督・脚本を務めた作品である。

 吉田修一の原作は昨今映画化される機会が多く、これまでに「パレード」(2010日)、「悪人」、「さよなら渓谷」(2013日)を観た。いずれの作品もストーリーテリングの上手さが光るサスペンス映画になっていて、今一な作品から傑作まで色々とあった。ただ、共通して言えることは、犯罪その物の謎解きよりも、そこに関わる人間模様の方に強く惹きつけられたという事である。罪を犯してしまう人間の”業”といったものが克明に記されていて、これはおそらく吉田修一の作家性なのだろう。見終わった後にはズシリとした鑑賞感が残った。

 本作は3つのエピソードが同時並行に展開される群像劇となっている。夫々のエピソードには、素性の知れない3人の青年たちが登場してくる。もちろん、このうちの誰かが殺人犯なのだが、しかしそれを気にしながら見ても本編中には犯行に繋がるヒントは全くと言っていいほど出てこない。それどころか、警察が張り出す犯人のモンタージュ写真は3人の特徴を混ぜたような顔で、かえって混乱させられてしまうばかりである。最終的に犯人は判明するが、それも終盤に突然現れた犯人の知人の口から明らかになるだけで、何だかテストの答え合わせをしているような感じがして余り面白味は感じられなかった。正直、今回の映画は推理物として観た場合は完全にNGである。

 ただ、個々のエピソードはそれだけでも十分に1本の作品として成立するくらい濃密な人間模様が展開されており、尚且つ3つのドラマから明確に一つのテーマが導き出されるようになっている。人間ドラマに着目すればかなりの見応えを感じる作品である。

 3つのエピソードから導き出されるテーマは”信じることの難しさ”だと思った。

 ここに登場する3人の青年達は、皆孤独の淵に立たされている。愛されたい、けど愛してもらえない‥という不満を抱えながら希望の見えない人生を歩んでる。
 ネタバレしないように書くが、犯人とそうではない青年達との差は、結局周囲に彼を必要としてくれる人間がいたかどうか‥だと思う。犯人以外の青年達は、周囲の愛に救われ自暴自棄にならずに済んだ。愛とはつまり他人を”信じる”ことである。しかし、犯人にはそういった友人、恋人が周囲にいなかった。”信じる者”もいなければ、”信じてくれる者”もいなかった。そんな孤独が延々と続く中で犯人の頭は狂ってしまったのだろう。孤独を溜め込み過ぎて、他者に対する”怒り”という形で今回の殺人事件を起こしたのだと思う。

 この孤独感は人間関係が希薄になった現代社会の病理と言えるかもしれない。また、犯人は最下層の派遣社員だったという過去を持っている。これもまた現代社会を投影していると言っていいだろう。そういう意味で、本作は非常に社会派的な趣旨を持った作品にもなっている。

 それにしても、恩を仇で返す‥じゃないけれど、時として慈愛が”怒り”を生んでしまう‥と考えると、たまったものではない。孤独が蔓延する社会の危険性をこの映画は鋭く抉り出しているが、見終わった後には何ともやるせない気持ちにさせられた。

 ただ一方で、逆にそんな時代だからこそ、”信じる”ことの尊さ、素晴らしさはあって欲しい‥とも思った。
 映画のラストは千葉編で終わる。ここには”信じる”ことの尊さ、素晴らしさが訴えかけられているような気がした。人は信じることで初めて前に進むことが出来る。だから、たとえ裏切られても、最後は信じるしかない‥という、かすかな希望。それが見えたのは救いだった。殺伐とした中にホッと安堵させてくれる。心に沁みるエンディングで素晴らしかった。

 ストーリー上、本作の難を挙げるとすれば、ややご都合主義に映る場面が幾つか見つかることだろうか‥。
 例えば、終盤のカフェのシーン。偶然にしてもそんなに都合よく再会するだろうか‥と思ってしまった。また、終盤で犯人を知る証人が登場するのも、伏線がないせいで唐突に感じた。しかも、彼の話を刑事が黙って聞いているというのも何だかリアリティに欠ける。

 李監督の演出は、今回もシリアスなトーンで統一されている。3つのエピソードを巧みに交錯させながら上手くクライマックスを盛り上げていると思った。
 逆に、カットバックが余りにも無頓着に繰り返されている箇所もあり、そこについては余り感心できなかった。頻繁なカットバックによって飽きなく見れることは確かだが、これがかえって散漫にしてしまっている。
 例えば、沖縄編におけるレイプシーンと浜辺のシーン。泉の怒りの心情を観客に伝えるべく、敢えて時制の異なる二つを交差させている。しかし、個人的には夫々にもっとジックリと見てみたいシーンだった。非常に勿体ない。
 序盤の千葉(夜)と沖縄(昼)のカットバックも時間軸が異なるせいで無頓着に映った。この辺りはもう少し考えて欲しい。

 本作のもう一つの大きな見所は豪華キャスト陣による演技合戦である。日本映画界を牽引する俳優たちが揃っているので大変見応えがある。特に、宮崎あおいと綾野剛は頭一つ抜け出ていた感じがする。

 宮崎あおいが演じた愛子は悲惨な状況に置かれているキャラクターで、演技のさじ加減が非常に難しい役所だったと思う。一歩間違えればリアリティの欠片もないキャラになってしまっていただろう。しかし、彼女はそこを上手く演じていた。
 綾野剛はゲイの風来坊という、これまた難役で、今回はナイーヴな演技を披露している。個人的に彼に対するこれまでのイメージは割とイケイケな感じだったので、今回の演技は実に新鮮に映った。

 一方、これは演者の演技プランなのか、それとも監督の演出なのか分からないが、演技が過剰に写るキャストもいた。不憫な娘・愛子を助けてやれない自分の惨めさを、これでもか!と言うほど苦悶の表情を滲ませて熱演する渡辺謙。クライマックスで”ある事実”を知って感情を高ぶらせて泣きじゃくる妻夫木聡。美しい海に向かって慟哭するラストの広瀬すず。この3か所は大仰で受け付けがたいものがあった。
 とはいえ、この場面以外は夫々に概ね好演していたと思う。広瀬すずなどは、かなり体当たりの演技を披露しており、女優として一皮むけた感じがする。
 他に、松山ケンイチ、森山未來等、芸達者な若手俳優が揃っていてキャスト陣は非常に充実している。
[ 2016/10/21 02:35 ] ジャンル人間ドラマ | TB(0) | CM(0)

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