fc2ブログ










PK

奇妙な宇宙人が巻き起こす風刺コメディ。笑えて泣けて考えさせられる快作!
pict303.jpg
「PK」(2014インド)星3
ジャンルコメディ・ジャンルSF・ジャンルロマンス
(あらすじ)
 留学先のベルギーで悲しい失恋を経験して帰国したジャグーは、テレビ局に就職し、そこでニュース番組のレポーターの仕事に就く。ある日、“神様が行方不明”というチラシを配る奇妙な男を見かける。さっそく取材してみると、PK(酔っぱらい)と名乗るその男は、自分は宇宙人で宇宙船と交信するためのリモコンを盗まれて帰れなくなってしまったと言う。そのリモコンを見つけてもらうために神様を探しているらしい。最初は信じなかったジャグーだが、彼の奇跡の能力を目の当たりにして、リモコン探しに協力するようになる。

ランキング参加中です。よろしければポチッとお願いします!

FC2ブログランキング
にほんブログ村 映画ブログへ人気ブログランキングへ


(レビュー)
 本国インドで歴代興行ナンバーワンの大ヒットを記録し、日本でも小規模の公開ながら口コミで大好評を博した「きっと、うまくいく」(2009インド)の監督・主演コンビで作られたSFロマンチック・コメディ。

 いきなり宇宙の視点から始まり驚かされるが、ストーリー自体はいたって現代的でPKの姿形も地球人と一緒なので特に構えずとも見れる所が良い。監督・主演が一緒なので「きっと、うまくいく」を面白く観れた人なら、本作も十分に楽しめるだろう。

 この映画はPKが地球人の習慣や宗教、メンタリティな部分に疑問を抱き、それに問題提起をする‥という構成で綴られている。いわゆるカルチャーギャップ的な面白さを狙ったコメディ作品である。しかし、笑いながら見ている中に彼の問題提起が社会風刺として浮かび上がってくる作りが上手く、見終わった後には色々と考えさせられた。

 例えば、宗教の問題はこの映画における大きなテーマの一つである。
 インドは多くの宗教がひしめく多宗教国家で、ヒンズー教、キリスト教、イスラム教、仏教等、地域や民族によって多種多様である。PKは宇宙船を呼ぶリモコンを盗まれてしまい、それを見つけ出そうと方々を巡るのだが、最終的には人々が言う”神様”に頼むことになる。しかし、一体どの宗教の神様にお願いすればいいか分からなくなってしまう。そして、神様なんて嘘つきだ。いくらお願いしてもちっとも叶えてくれない!と不信感を募らせていくようになる。彼のこの不信感は終盤で”ある事件”に巻き込まれることによって決定的な物となるが、この”ある事件”などは明らかに今もって絶えることのない宗教間紛争に対する皮肉と捉えられる。

 このように絶妙な形で現代風刺がスパイスのように効いており、通り一辺倒なお気楽コメディになっていない所が中々侮れない。

 この作り方は、ちょうど社会の常識を手玉に取って笑いに仕立てたC・チャップリンの映画に通じるものがある。彼も「チャップリンの独裁者」(1940米)で当時のヒトラーを痛烈に批判した。宗教と政治を笑いのネタにするのは相当勇気がいるものであるが、本作もチャップリンの映画同様、それをかなり大胆にやってのけている。実に大したものである。

 そう言えば、常に目を見開いた表情、猫背な姿勢、腕を振らない走り方等、PKの独特のルックも、チャップリンの風貌、所作から発想を得ているのかもしれない。PKの特異なキャラを強烈に印象付けている。

 ちなみに、PKとは「酔っ払い」という意味である。彼の言動を見た人々が口をそろえて”お前はPK(酔っ払い)か”と言うものだから、彼自身がPKと名乗ることにした。しかし、考えてみれば彼ほど純粋な眼差しで物事を見る宇宙人もそうそういない。むしろ、酔っぱらっているのは、宗教を拠り所とした争いや偏見を止められない地球人の方なのではないか‥と、そんな風に思った。PK(酔っ払い)という呼び名が皮肉めいて聞こえる。

 本作のもう一つのテーマはロマンスである。
 PKはテレビ・レポーターをしているジャグーに声をかけられて親交を深めていく。ジャグーにとってみれば、珍奇な言動をする自称”宇宙人”PKは格好の取材のネタである。住む家がないと言う彼を自分のアパートに住まわせて、一緒に暮らし始める。しかし、彼女は昔の恋人のことを今でも忘れられず、PKのことはあくまで友人としか見ていない。
 一方のPKは宇宙人とはいえ男である。一緒に過ごすうちに、優しくて可愛い彼女に惚れてしまう。結局、彼のこの想いはクライマックスで悲恋に転じていくのだが、この辺りは涙無くして見れない。PKの純粋な優しさに泣かされてしまった。「男はつらいよ」シリーズの寅さんを連想した。

 前作「きっと、うまくいく」も相当長尺の映画だったが、今回も2時間半を超える大作である。この程度の長さは満漢全席なインド映画では珍しくもないが、しかし今回は前作に比べるとストーリーが割とシンプルなため若干中だるみを起こすのは残念だった。控えめながらインド映画には付き物の歌とダンスもあるし、全編軽快なテンポで進むので、決して退屈するということはないが、内容的に言ってもう2,3回捻りがあると更に楽しめたかもしれない。例えば、PKとジャグーの家族の間を深く突っ込んで描いたり、リモコンを盗んだ犯人捜しをもう少しフィーチャーしても良かったかもしれない。このあたりが割とアッサリ気味だったのが少し残念な所だった。
[ 2016/11/05 20:59 ] ジャンルコメディ | TB(0) | CM(0)

コメントの投稿













管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

この記事のトラックバックURL
http://arino2.blog31.fc2.com/tb.php/1547-2648344a