ミック・ジャガーが実在のアウトローを演じた西部劇。
「太陽の果てに青春を」(1970英)
ジャンル青春ドラマ
(あらすじ) オーストラリアの西部。犯罪者の息子として生まれたネッド・ケリーは、馬泥棒の冤罪で3年の服役から解放された。家族はネッドを温かく迎えるが、一度警察に目を付けられた彼は執拗に嫌がらせを受けるようになる。そして、彼の留守中に家族が逮捕されてしまう。ネッドは弟のダンや仲間たちと共に反乱を起こす。
ランキング参加中です。よろしければポチッとお願いします!


(レビュー) ローリング・ストーンズのヴォーカリスト、ミック・ジャガーが、伝説のアウトローを熱演した犯罪青春映画。
尚、彼が演じるネッド・ケリーは実在した人物である。自分は不勉強で知らなかったのだが、19世紀中頃にオーストラリアで方々を荒らしまくった盗賊だそうである。彼を主人公にした小説や映画は何本も作られており、今回の作品はその中の1本となる。
まず、冒頭から「THE END」のテロップが出て面食らった。いきなりネッドが死刑になってしまうのだ。しかし、まさかこれで映画が終わる筈もなく、ここから物語は数年前に遡って彼の半生が綴られる。
ドラマ自体は非常にシンプルで、当時の潮流もあったのだろう。いわゆるアメリカン・ニュー・シネマの影響を受けた、若者の”刹那的な反乱”を描いたドラマとなっている。
犯罪者のレッテルを貼られたネッド率いるケリー一家は、理不尽な警察権力の支配から逃れて銃を片手に戦いを挑んでいく。しかし、圧倒的な戦力を前に次々と仲間達は倒れ、最後はネッドも非情な顛末を迎える。
印象的だったのはクライマックス・シーンである。警官隊に取り囲まれた仲間を助けるために、ネッドが鉄の鎧を身に着て助けに向かう。しかし、それを警官隊に待ち伏せされ、彼は雨あられと銃弾を浴びせられる。そのほとんどは鉄の鎧で食い止めることが出来るのだが、さすがにこれだけ受けると着弾の衝撃は避けられない。やがてネッドはついに道半ばで倒れてしまう。
ここはアメリカン・ニュー・シネマの傑作「俺たちに明日はない」(1967米)のラスト。主人公のボニー&クライドが87発の銃弾を浴びて絶命したシーンと重なって見えた。
この壮絶なクライマックス・シーンは劇画調であり、それまでのリアリティ路線からかけ離れた演出になっているが、ネッドの生き様、体制に抗う信念が象徴的に表された名シーンのように思う。バックにかかる時計の秒針音も何だか虚しく響き非常に印象に残った。
本作の難はストーリーが性急で、登場人物の整理がままならない点だろうか…。これは編集が雑なせいもあるように思う。
例えば、1シーンをたった数秒の描写で済ませてしまうような箇所が幾つか見受けられる。ダイジェスト風な描写で作品のトーンを統一しているのならまだしも、こうした簡略表現が脈絡なく出てくると違和感を覚えてしまう。
また、クライマックスの籠城シーンもケリー一家の誰と誰が撃たれたのか、さっぱり分からず、いつの間にか生き残っているのは二人だけになっていて呆気にとられてしまった。
また、ケリー一家はアイルランド系移民で、周囲から理由なき差別を受けている。実は、このバックストーリーは非常に重要で彼の反抗の理由の一端になっている。しかし、この設定がドラマの中で上手く機能しているように思えなかった。ネッドの戦いに感情移入させようとするなら、この説明はもう少し丁寧に掘り下げた方が良いだろう。
尚、本作には要所で度々、劇中歌が流れてくる。いずれもネッドの心情を表したかのような歌詞なのだが、歌詞が少々ナルシスティックで鼻についてしまった。しかも、肝心のミック・ジャガーが歌っているのは、その内の1曲というのも何だか残念である。
本人もこの映画に関しては良いコメントを残しておらず、余り良い思い出はないようである。
現在、国内ではDVD化されておらず、ミック・ジャガーのファンにもサジを投げられた感じのする本作であるが、ただ個人的に撮影に関しては所々に素晴らしいものがあり、それを見れただけでも良かったと思う。撮影は実際にオーストラリアで行われ、戦いの最中にふと見せる美し自然風景が心に沁みた。