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ほとりの朔子

二階堂ふみの瑞々しい美しさが印象に残る甘くて苦い青春映画。
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「ほとりの朔子」(2013日)星3
ジャンル青春ドラマ・ジャンルロマンス
(あらすじ)
 大学受験に失敗した朔子は叔母・海希江に誘われて、旅行で留守にする伯母・水帆の家で2週間の夏休みを過ごすことになった。海沿いの小さな町での暮らしは、朔子のささくれだった心を癒した。ある日、海希江の学生時代の友人・兎吉から甥の孝史を紹介される。孝史は東日本大震災を経験した不登校の少年だった。朔子は彼と少しずつ交流を重ねて行くのだが…。

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(レビュー)
 進路に挫折した少女の一夏のバカンスを周囲の人間模様を交えて描いた青春ドラマ。

 何か大きな事件が起こるでもなく淡々と日常風景を切り取った作品であるが、微に入り細に入り登場人物たちの心理が巧みな演出で表現されており、色々と想像しながら観て行くと中々の歯ごたえが感じられる。

 監督・脚本は、家族の崩壊と移民問題を見事に共存させた異色のブラックコメディ「歓待」(2010日)で注目された深田晃司。今回はその時とは少し異なったトーンの作品となっている。夏の避暑地を舞台にした少女の恋愛ドラマで、どこかE・ロメールの映画を思わせるような瑞々しさ、甘酸っぱさが感じられた。

 例えば、朔子と孝史が海希江のために珍しい花を探しに行くシーンがある。ここで川辺に佇む真っ赤なワンピースを着た朔子の姿を捉えたショットが登場する。これなどは正に青春ロマンスここに極まれり!と言わんばかりの煌めきに満ちていて、こう書くと語弊があるかもしれないが、コマーシャリズム的なキャッチーさに溢れている。

 深田監督はどちらかと言うとシナリオ重視の映像作家だと思っていた。というのも、唯一「さようなら」(2015日)だけは、彼が所属する劇団青年団の師・平田オリザの戯曲を元にしているが、それ以外は全てオリジナル脚本で撮っているからである。おそらく本人の中ではよほどシナリオに自信があるのだろう。しかし、このショットなどを見ると、案外映像に凝る作家だったのかもしれない‥と考えを改めさせられる。

 本作は朔子のドラマ以外に、様々な周囲の人間ドラマも用意されている。彼らの複雑に絡み合った人間関係も見逃せなかった。特に印象に残ったのが2点ある。

 一つ目は、海希江と中盤から登場する彼女の恋人・西田の愛憎ドラマである。西田は美術界隈では高名な研究者で近くの大学に臨時講師として招かれて、そのついでに海希江の所へやって来る。表向きはいかにも清廉潔白な好青年に見えるが、実はかなりのエゴイストでもある。ある日、彼は生徒の一人とホテルに入ってしまう。その相手とは、よりにもよって海希江の友人・兎吉の実娘・辰子である。

 この辰子という女性もかなり複雑なバックグラウンドを持っていて、彼女はヤクザな商売をしている父・兎吉のことを心の底では蔑み憎んでいる。傍から見れば至って普通の仲の良い父娘に見える。そして、兎吉自身も、よもや娘が自分のことをそんな風に憎んでいるとは思ってもいない。

 そんなワケありな彼らが辰子の誕生日パーティーで一堂に揃うことになる。このシーンにおける生々しい会話劇は目が離せなかった。というのも、もし浮気がバレたら修羅場は必至だからである。どうにか西田は取り繕おうとするが、辰子は何をしでかすか分からない女である。一体どうなる?という好奇心から、このシーンは非常にスリリングに見れた。

 と同時に、この場には当然朔子も合席しているわけで、彼女の目からこの大人達のやり取りは一体どのように映っているのだろう?さぞかし滑稽に醜悪に写ったのではないか?そんなことも考えてしまった。

 二つ目は、孝史の数奇な運命を巡るドラマである。彼は東日本大震災の被災者で、福島から一人で避難してきた少年である。親戚である兎吉の元で暮らしているのだが、先述したようにこの兎吉はヤクザな男でラブホテルの支配人をしている。孝史は不登校で昼間からそこでアルバイトをさせられている。非常に朴訥とした少年なのだが、周囲の環境が余りにも悪すぎる。

 そんな彼が、ある日同じ学校の女子からデートに誘われる。しかし彼は心の中では朔子のことが好きなので、その返答に躊躇してしまう。そして、孝史の思いを知ってか知らずか、朔子は気を使って彼にデートに行くよう勧める。ところが、このデートがとんでもない結末を迎えてしまう。
 ここも印象に残った。東日本大震災以降、こうした問題が本当にあるのではないか?というモヤモヤした疑問が脳裏をよぎったからである。

 震災後、原発反対運動が様々な形で広がりを見せている。あれだけの放射能汚染があったのだから当然だろう。しかし、純粋な思いで始まった運動も、参加規模や組織体制が大きくなれば、もはや個人の思いだけでは”動かせなくなってしまう”。果たして彼らの運動は誰のためにやっているものなのか?市民を守るという大義の元に誰かを傷つけてないだろうか?そういった疑問が沸き起こった。

 「歓待」で移民流入という社会問題を取り上げた深田監督は、ここでは東日本大震災という大きな問題を取り上げている。こうしたジャーナリスティックな問題提起は、良くも悪くもこの手の作品の場合、テーマを語る上での”不純物”となりがちである。しかし、今回はその問題提起が自然な形でドラマの中に組み込まれていて、すんなりと観ているこちら側に入ってくる。深田監督のこのあたりの手捌きは見事だと思った。

 キャストでは朔子を演じた二階堂ふみの瑞々しい美しさが印象に残った。「地獄でなぜ悪い」(2013日)「私の男」(2013日)等、これまでエキセントリックな役しか見てこなかったせいもあり、今回のような”低体温”な演技は新鮮に映った。ここまで役柄によって演技の幅をコントロール出来るというのは大したものである。ビジュアルだけでなく実力も備わった本格派女優として今後も成長していってほしい。
[ 2016/12/15 02:36 ] ジャンル青春ドラマ | TB(0) | CM(0)

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