オジサン二人の珍道中。
「ロング・トレイル!」(2015米)
ジャンル人間ドラマ・ジャンルコメディ
(あらすじ) 故郷を離れて長年紀行作家をしていたビルは、数十年ぶりに帰国し妻子と悠々自適な生活を送っていた。しかし、平穏な暮らしにどこか満たされぬ思いが湧きおこり、家の近くを通るアパラチアン・トレイルを踏破したいという欲望に駆られる。初めは反対する妻だったが、ビルの強い思いを知り、一緒に旅をしてくれる仲間がいることを条件にその旅を許す。こうしてやって来たのが、40年来音信不通だったかつての悪友カッツだった。2人はいざ過酷なロングトレイルへと繰り出すのだが…。
ランキング参加中です。よろしければポチッとお願いします!


(レビュー) 2人の中年男が難関とされるアパラチアン・トレイルに挑戦するアドベンチャー・ドラマ。
主演はR・レッドフォードとニック・ノルティ。本作はこの二人の掛け合いが一番の見所となっている。
かつては二枚目俳優として活躍していたレッドフォード。男臭い演技でハードなアクション作品で活躍していたノルティ。資質の違いはあれど、共に70~80年代のハリウッド映画を牽引してきた名優たちである。それがここでは冴えないオジサンに扮している。彼らの往年の作品を見て知っている者としては、今回の役所は味わい深く観れた。
例えばクライマックス。2人が絶体絶命の”ある窮地”に立たされたシーンにはしみじみとさせられた。無数の星空を見上げて、これまでのわだかまりや今までの半生を語り合うのだが、その星の一つ一つが映画界に燦然と輝くスターたちという風に捉えれば、彼らのセリフがただの役柄上の”言葉”ではなく、俳優としての”言葉”にも聞こえてくる。過去を回顧する姿が愛おしく感じられた。
また、旅の途中で彼らは様々な人々と出会うのだが、その中の1エピソード、恋愛ドラマも夫々の俳優としての資質に照らし合わせながら面白く観ることが出来た。
レッドフォード演じるビルがモーテルのハイミスと淡い恋愛を繰り広げれば、ノルティ演じるカッツはコインランドリーで出会った巨漢の黒人女性と仲良くなる。ところが、この黒人女性が人妻だったことから、彼らはその旦那に追いかけ回されることになる。この恋愛にまつわるキャラクターの対比などは、文芸ロマンや慎ましいロマンス映画で演じてきたレッドフォードの役者としてのイメージと、女にだらしないタフガイを演じてきたノルティの俳優的資質をそのまま投影していると言える。
本作には原作(未読)があるが、脚色の段階でどこまでアレンジされているのだろうか?しかし、主演2人の資質をここまで忍ばせたストーリーは大変よく出来ている。キャスティングの段階から、ある程度方向性は決まっていたのではないだろうか。そう思えるくらいキャストとストーリーが見事にフィットしている。
一方、全体的なドラマはシンプルにまとめられている。途中で出会う人々との交流もユーモラスに味付けされており楽しく見ることが出来た。
ただ、欲を言えば、カッツの背景をもう少しピックアップして欲しかったのと、ラストが今一つ盛り上がりに欠けるのが残念だった。割とアッサリとしているので少し物足りない。
尚、最も笑ったのは、ビルがスーパーに買い物に行くシーンである。途中で底なし沼にハマり、せっかくコインランドリーで洗ったばかりの服が全身泥まみれになってしまう。かつての二枚目俳優もこうなってしまっては目も当てられない。しかし、そんなドジな所も含めて、この両者には愛おしさをおぼえてしまう。レッドフォード、ノルティ、共に楽しそうに演じているので、決して嫌な感じに写らないのが良い。
そして、2人とも容姿はオジサンだが、心は”やんちゃ”な少年のそれである。彼らの前向きな姿は、きっと映画を観た人にも勇気を分け与えるに違いない。いつまでたっても彼らのように常に挑戦する気持ちは忘れないでいたい‥。自分自身も、映画を見終わった後にそんな風に思った。