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グランドフィナーレ

豪華ホテルを舞台にした現代の群像寓話劇。
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「グランドフィナーレ」(2015伊仏スイス英)star4.gif
ジャンル人間ドラマ
(あらすじ)
 世界的音楽家のフレッドは現役を引退して、アルプスの山々を見渡すスイスの高級リゾートホテルで隠匿生活を送っていた。そこに英国女王の特使がやって来る。フレッドの代表曲「シンプル・ソング」を式典で演奏して欲しいとのことだった。しかし、フレッドは”ある理由”からこれを頑なに断る。その後、フレッドは娘レナから婚約解消の相談を受ける。婚約相手は同じホテルに宿泊する長年の親友で映画監督ミックの息子だった。フレッドとミックは2人をどうにか元のさやに収めようとするのだが‥。

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(レビュー)
 アルプスの山々を一望できる高級リゾートホテルを舞台にした群像劇。

 登場するのは引退した作曲家フレッドとその娘レナ。シナリオを書くためにやって来たフレッドの親友で映画監督のミック。新作の役作りのためにやって来た映画スター・ジミー。元名サッカー選手。宿泊客に登山を教えている登山家。一言も口を利かない老夫婦。両親を嫌悪する少女。フレッドの専属マッサージ師等、多彩な人物たちである。

 その中で主となるエピソードが、フレッドとミックの友情ドラマ、フレッドと妻と娘レナの家族確執のドラマである。この二つは共に後半でドラマチックな展開を見せる。フレッドは愛する妻との間に残した遺恨を解消し自らの人生に一つのケジメをつける。ミックもフレッドとは違った形で自らの人生にケリをつける。二人の人生の明暗を表したクライマックス以降の展開は実に感動的な盛り上がりを見せている。
 尚、このクライマックスはそのままエンドクレジットに繋がっており、こういう形で終幕する映画というのも斬新である。正に屈指の名エンディングと言えよう。

 この他で印象に残ったのは、映画スター・ジミーのドラマである。彼は新作の役作りのために、このホテルにやって来たのだが、その役とは何なのか?予想を裏切る”役”で卒倒した。
 また、舞台袖として描かれるショート・エピソードとして、一言も口を利かない老夫婦のドラマも中々毒が効いていて面白かった。険悪な関係に見えていて実は裏では情熱的に愛し合っていた‥ということが分かり、思わず苦笑してしまった。

 各エピソードに出てくる登場人物は交錯する者もいるが、基本的には個々の独立したドラマとして見ることも可能である。グランドホテル形式のドラマと言っても複雑に絡み合うことはなく、スッキリとした構成で大変見やすい。整然と展開されるシナリオは中々完成度が高いと思った。

 かくして一連のドラマを見終わってみると、本作の訴えるメッセージも見えてくる。

 本作の原題は「YOUTH」=「若さ」である。この言葉は劇中で一度だけ登場してくるが、このシーンが全てを物語っているように思った。

 このホテルは、言わば人生の時間を止めてしまった者達が集う”吹き溜まり”のような場所なのだと思う。ホテルの滞在者は夫々に外の世界、現実から背を向け生きる”迷い人たち”である。

 フレッドは妻との確執から音楽家としての道を捨ててしまった者。ミックは新作が思うように撮れず、延々と脚本の結末について思考を巡らす者。ジミーは過去の栄光が重荷になり俳優として進むべき道を見つけられない者。婚約者に振られた傷心のレナは新しい恋を見つけられない者。このホテルに滞在する人々は皆、過去に縛られ未来を見つけられないでいる者達ばかりである。

 そして、ある者は過去に縛られたまま人生を終えてしまい、ある者は過去の咎を清算して未来に向かって歩んでいく。夫々が夫々の結末が迎えるが、そこに人生の数奇を見てしまう。「YOUTH」=「若さ」とは、物理的な年齢を言っているわけではなく、生き方における「若さ」。つまり、過去をやり直す生命の活力を意味しているように思った。

 フレッドは確かに老境に差し掛かった男である。しかし、音楽に対する未練がないわけではない。それは彼が時々お菓子の包み紙でリズムを取るしぐさからも何となく伺える。心のどこかでホールに立ちたいという願いがまだ残っているのだろう。人生の”吹き溜まり”から抜け出して再び音楽の道に生きたい‥という願望みたいなものが感じられた。
 そして、彼のその思いはクライマックスで見事に結実する。そこに彼の「YOUTH」=「若さ」が伺える。人生の終末に於いて尚、生きる活力を見い出そうとする、その姿には感動を禁じ得なかった。テーマもとくと伝わってきた。

 ちなみに、この「YOUTH」というセリフが一度だけ登場するシーンでは恣意的なモンタージュが駆使されている。鳥籠を通して捉えたフレッドのアップは、彼が置かれている状況を端的に表現していると言える。このショットは、彼がこのホテルという”檻”に籠った老人であることを暗に示している。そしてこの時、彼が見つめる先には、明るい表情で微笑む女性マッサージ師の姿があった。その笑顔はフレッドにどう映ったのだろうか?きっと羨ましく映ったに違いない。そういう意味では、この女性マッサージ師は、このホテルにいながら、唯一「YOUTH」に溢れた女性だったのかもしれない。この陰と陽の対比は見事だった。

 監督・脚本はP・ソレンティーノ。前作「グレート・ビューティー/追憶のローマ」(2013伊仏)で卓越した演出手腕を発揮した彼が、今回も素晴らしい映像マジックで観客を魅了している。

 このホテルでは毎晩のように広場でミニ・コンサートやパフォーマンスが開催されている。中には目を見張るような幻想的なショーも登場し、心奪われてしまった。また、フレッドが見る悪夢は非常に刺激的でゴージャスな特撮が駆使されており、彼の寂寥感や現実に対する恐怖心が見事に表現されていた。
 ミックが見る過去の幻影も然り。様々な映画に対するオマージュを忍ばせつつ、スケール感溢れるシーンに仕上げられている。

 そして、何と言ってもホテルの背景に横たわるアルプスの雄大な風景は、本作に堂々たる風格を与えている。ロケーションの勝利だろう。

 各登場人物を一つの音楽でドラマチックに紡ぐシーケンスも手練れている。このあたりは、同じ群像劇ということでP・T・アンダーソン監督が撮った「マグノリア」(1999米)や「ブギーナイツ」(1997米)を連想させられた。

 一方で、前作同様、若干CGの処理が甘い箇所があったのは残念である。具体的にはレナと登山家が結ばれるラストカットなのだが、バックにかかるフレッドのドラマチックな演奏もこれでは少し興が削がれてしまう。

 先述したように、整然と構成されたシナリオも大変手練れている。幾つか心に残るようなセリフが見つかったのも収穫である。

 例えば、ミックは若い弟子たちに望遠鏡を使って次のような人生訓を語る。
「若い頃は未来のことが近くに見えるが、年を取ると過去のものが遠く感じる。」
 これには、なるほどと思えた。

 また、ミックのお抱え女優ブレンダのセリフも印象に残った。彼女は過去の栄光にすがるベテラン女優で、現在は映画出演だけでは食って行けずテレビドラマ・シリーズに出演することになっている。彼女の口から発せられた言葉は、現在のハリウッド業界を暗に皮肉っているようで興味深く聞けた。芸術映画よりもテレビドラマの方がギャラはいいし安定した収入があるというのだ。
 確かに、現在のハリウッドにおけるテレビ産業への注力には目を見張るものがある。そのおかげで随分とクオリティの高いテレビドラマが誕生してきている。しかし、その影には、ハリウッドの才能ある映画人たちが皆そちらへ活動の場を移しているという実情がある。そのせいで映画産業自体の牙城が崩れつつある。
 ブレンダを演じるのが、かつてアメリカを代表する名女優J・フォンダということもあり、彼女のこのセリフには妙な説得力が感じられる。現代のハリウッド映画産業に対する警鐘。それが彼女のセリフから汲み取れた。
[ 2016/12/30 11:31 ] ジャンル人間ドラマ | TB(0) | CM(0)

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