今年はアメリカの大統領が変わる年。大統領選を舞台にした映画は色々とあるが、いずれもイメージは余り良くない。
松竹 (2012-09-08)
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「スーパー・チューズデー ~正義を売った日~」(2011米)
ジャンル社会派・ジャンルサスペンス
(あらすじ) スティーヴンは次期大統領候補の呼び声高いマイク・モリスの選挙事務所で働く広報官である。最大の注目であるオハイオ州予備選を目前に控えて、彼は相手候補の選挙参謀から1本の電話を受けてしまう。これがきっかけで彼は破滅の道へ追い込まれていくようになる。
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(レビュー) 大統領予備選を背景にした政治ドラマ。野心溢れる青年の数奇な運命を硬派なタッチで描いている。
民主党大統領予備選のスタッフを務めた人物が原作を書いているとあって、中々のリアリティが感じられる作品だった。
とはいえ、スティーヴンが追い詰められていく過程はかなり劇画チックに活写されており、エンタテインメントに拠った作りになっている。余り身構えずに単純に1本の娯楽映画として楽しむのが良いだろう。
監督・共同脚本を務めるのは、本作でマイク・モリス役を演じたJ・クルーニー。彼は二枚目俳優として華々しい活躍を続ける一方で「グッドナイト&グッドラック」(2005米)等で監督業やプロデュース業にも進出している。「グッドナイト~」における渋い演出は内外から高い評価を受けており、俳優だけでなく監督としての実績も十分に持った、今やハリウッドを代表する映画人となっている。今回も全編、正攻法な作りで破綻も少なく感心させられた。
一番印象に残ったシーンは、モリスの演説のバックステージで行われる、スティーヴンと彼の先輩スタッフ、ポールの会話である。2人の姿がバックライトによって全身シルエットになりフィルム・ノワール調なタッチに味付けされている。この陰影が2人の会話をミステリアスに盛り上げていて良かった。
ストーリーも中々面白く追いかけることが出来た。
いわゆる政治を舞台にしたドラマというと難解に思われるかもしれないが、先述したようにかなり明快なエンタメとして料理されている。一人の青年の成功と挫折の物語として、誰もが感情移入しやすいドラマとなっている。政治の世界にスキャンダルや裏切り、駆け引きは付き物である。そうした”俗っぽさ”を前面に出したことが奏功している。下世話なゴシップ記事を読んでいるような感覚で面白く観ることが出来た。
大統領予備選について全く予備知識がなくても、親切に舞台裏を解説してくれているので、その点も見やすさに繋がっている。
また、今回のドラマは非常に普遍性を持ったドラマとして、身近に引き寄せて考えることが出来た。
スティーヴンは相手候補の選挙参謀とコンタクトをとったことで、先輩スタッフ、ポールに解雇される。この時、ポールは自分の過去の苦い経験を打ち明ける。その経験は、一言で言ってしまえば、一度失われた信頼を取り戻すことは難しい‥という教訓である。スティーヴンは彼のこの言葉を聞いて、このままでは終われない‥と奮い立つ。そして、二度と戻れないと言われた政治の世界に再び活路を見出そうと様々な策を張り巡らす。”昨日の友は今日の敵”を地でいくようなダーティーな復讐劇を始めていくのだ。
かくして、映画のラストでスティーヴンは見事に政界に返り咲くことになる。このラストは映画の冒頭とまったく同じシチュエーションでユーモラスに観れるのだが、スティーヴンがまるで別人のような表情になっている所に注目したい。まさに”してやったり”といった感じで、非常に誇らしい顔をしている。おそらく彼は今後も政界で更にのし上がって行くに違い‥そんな未来も想像できてしまう。
ただ、一方でこのラストを見て、これが本当に彼にとってのハッピーエンドと言えるのだろうか?という疑問も残った。彼がこれまでしてきた事は決して褒められたことではない。少なくとも正義を実行すべき政治の世界では、その意に反する行為である。
政治は綺麗ごとだけではやっていけない、時には手を汚すことも必要だ‥と考える人がいる。確かに自分もそう思う事がある。だとすれば、スティーブンがこのまま政治の世界に身を置くのであれば、いつか同じような仕打ちを受ける日が来るのでないか?そんな不安と怖さも覚えた。
このドラマに普遍性をもたらしているのは正にこの部分だと思う。
果たして、本当にこれで正しい政治が行われるのか?この勝利は本当に国民が望んだことなのか?スティーヴンにとっての正義とは何なのか?そうした疑問が脳裏をよぎり安易にハッピーエンドと割り切れないのである。そして、映画のサブタイトルである「正義を売った日」の意味が反芻され、理想と現実は違う‥ということを思い知らされるのである。
全編よく出来ている作品であるが、唯一不満がるあるとすれば、それはスティーヴンと恋仲になる女性スタッフ、モリーの描き方である。彼女の終盤の”ある行動”がスティーヴンの中の正義を揺るがす”きっかけ”となるのだが、頭では理解できても、どうしても観てて安易に写ってしまった。”ある行動”が余りにもエキセントリックに見えてしまうからである。ここはもうひと押し説得力が欲しい所である。