猿の惑星新シリーズ第2弾は更に重厚にして濃密。
20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン (2015-11-25)
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「猿の惑星:新世紀(ライジング)」(2014米)
ジャンルSF・ジャンルアクション
(あらすじ) 高度な知能を獲得した猿のシーザーが仲間たちを率いて人類への反乱を起こしてから10年。進化を遂げた猿たちは森の奥深くに集落を形成していた。一方、わずかに残った人類は猿たちから離れてひっそりと暮していた。ある日、電力が底をつきかけた人間たちは、ダムの水力発電を利用しようと猿のテリトリーに足を踏み入れる。そこで猿たちと一触触発の事態に陥る。人間のリーダー、マルコムは事情を説明すればきっと分かってくれるはずと、シーザーに会いに行くのだが…。
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(レビュー) 人類と猿の戦いを描いた
「猿の惑星:創世記(ジェネシス)」(2011米)の続編。
今回の映画は前作から一気に時間が飛んでいるので前の話を知っていないとちょっと辛い内容かもしれない。前作に登場した人間たちは今回は登場せず、まったく新しいキャラクターたちのドラマが繰り広げられる。そういう意味では、まっさらな状態でも楽しめるのだが、後半で前作のキャラがシーザーの思い出の中に登場してくる。このあたりは流石に前作を観た上でないとよく理解できないだろう。できることなら前作を観た上で鑑賞するのがベストである。
この「猿の惑星」は60~70年代に一度シリーズ化されており、全部で5作品製作された。第1作はSF映画の金字塔と言われており、ラストシーンは今でも様々な作品でパロディにされている。それだけ多くの人に愛され続けているシリーズである。期待を寄せる人は多いだろう。
その新シリーズは第1作の前日談に当たる内容となっている。前シリーズに繋がる話なので結末はある程度決まったものとなる。なので、大まかなストーリー自体は決して目新しいわけではない。
しかし、猿たちがいかにして人類に反旗を翻したのか?いかにして勢力を拡大していったのか?そのあたりの事情を知るという意味では大変面白く観れるシリーズである。
さて、前作から10年という月日が流れているので、シーザーもすっかりリーダーとしての貫録がついている。前よりも成熟さが増しており、父親としての顔、権力者としての顔。様々な点で頼もしさが感じられた。
前作同様、高度なVFX技術で描かれた造形、表情も素晴らしく、映画を観ながらついシーザーに感情移入してしまう程だった。この実在感は見事である。尚、シーザー役のモーションキャプチャーは前作に引き続きA・サーキスが演じている。
一方、人間サイドの主役は小さなコミュニティーで陣頭指揮を執るマルコムという男である。電力の供給を得るために、彼は猿の集落へ行きそこでシーザーと出会う。
血で血を争う抗争も今や過去のものである。すでに猿たちの勝利は決っており、人類は彼らの下でひっそりと暮らす日蔭のような存在になっている。シーザーはそんな人間達に施しとまでは言わないものの、同情心が芽生えて電力供給に必要なダムの復旧工事を許可する。こうしてシーザーとマルコムの間にかすかな友情が芽生えていく。過去の憎しみを洗い流して新しい未来へ向けて友好な関係を築ていく姿には、しみじみとさせられた。
しかし、この友情を良しとしない者達もいる。猿たちの中には今でも人類を敵対視する者が大勢いて、シーザーのやり方に反発を覚えて蜂起する一派が現れる。その先頭に立つのが、シーザーの片腕であるコバという猿である。彼は、シーザーの協調路線に疑問を抱き謀反を企てる。この争いにはシーザーの家族も巻き込まれてしまう。
せっかく芽生えかけた人間との友情。自分についてきてくれた同胞たちの思い。今回の映画は、その板挟みにあうシーザーの葛藤を中心にしたドラマとなっている。前作と違って猿たちにかなり比重が置いた作りになっており、そこが今回の大きな特徴のように思う。
得てしてこの手のジャンル映画では、エンタテインメントを重視するあまりテーマを漂泊してしまうような所があるが、本作にはそういった悪癖が見当たらない。シーザーの葛藤は重厚に描写されており、かなりの見応えが感じられた。
また、権力を巡って争われるシーザーとコバの軋轢には、ある種の風刺も感じられた。こうした権力闘争は人間の世界とまったく一緒である。時代を経ても、場所が変わっても無くならないものであり、そこに何ともやりきれない思いがこみ上げてくる。
かくしてクライマックスは、人類と猿たち、シーザーの三つ巴の戦いになって行く。ここは派手なアクションを盛り込みながら中々ドラマチックに展開されていると思った。
但し、このクライマックスには一言物申したい。というのも、どうにもCG過多で自分にはついていけなかったのである。
そもそもこのシリーズの売りは、ハイクオリティなCGIで再現された猿の造形にこそある。ここまでリアルな映像もそうそうない…と、1作目を観た時には感心したものである。そうしたリアリティ重視なCGIとの対比から言っても、今回のクライマックスで見せるアクロバティックなアクションの数々はマンガチックで浮いてしまっている。実は、この不満は前作のクライマックスも然り。派手に盛り上げたいのは分かるが、何だか違和感を持ってしまった。
脚本はシーザーの葛藤を中心にしながらよく練られていたと思った。序盤の設定説明、中盤の友情ドラマ、終盤の激しい戦い。そして、戦いの末に訪れる劇的な結末。全編通してよく出来ている。
ただし、次の1点だけは不満が残った。
シーザーが銃弾に倒れて人間と猿は大規模な戦いに転じていく。その間、負傷したシーザーを誰も気遣わなかったのは、どう考えても不自然である。確かにあの状況では周囲に火が放たれていたので避難するのはやむを得ない。しかし、家族の誰かが戻ってきて助ける‥とするの普通ではないだろうか?結局、後からやって来たマルコムに助けられることになる。ここはシーザーの妻かブルーアイズが助けるのが自然だったように思う。
さて、本シリーズは第3作の製作が決定している。監督は今回と同じくM・リーヴスなので、きっと本作で見せた猿と人間の友情から更に一歩踏み込んだドラマが描かれることだろう。先述したように、前シリーズの前日談であることを考えれば、結末はある程度分かり切っていることである。そこに至るまでにどんなドラマがあるのか。期待したいところである。全米では今夏公開。