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ラ・ラ・ランド

夢に溢れた往年のミュージカル映画の復興。
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「ラ・ラ・ランド」(2016米)star4.gif
ジャンルロマンス・ジャンル音楽
(あらすじ)
 女優志望のミアはハリウッドの映画スタジオのカフェで働きながら、いくつものオーディションを受けているが中々役に恵まれないでいた。そんなある日、場末のバーから流れてくるピアノの音色に心惹かれる。弾いていたのは、ジャズをこよなく愛し、いつか自分のジャズ・バーを持ちたいと夢見るセブだった。2人は恋に落ち、互いに励まし合いながらそれぞれの夢に向かって奮闘していく。

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(レビュー)
 夢と希望に溢れたショウビズ界を舞台にしたミュージカル・ラブ・ストーリー。

 監督・脚本は前作「セッション」(2014米)で高い評価を受けたデイミアン・チャゼル。「セッション」はジャズ・ドラマーを目指す青年の立志のドラマだったが、今回もセブがジャズ・ピアニストという設定で、両作品とも音楽がモチーフになっているのが興味深い。

 その「セッション」は鬼畜な指導者を演じたJ・K・シモンズの熱演が大いに話題になったが、監督のデイミアン・チャゼルの切れのある演出も中々の物で、その年のアカデミー賞の監督賞にノミネートされなかったのが不思議なくらいだった。今回の作品を観て改めて思ったが、彼の演出力は相当な物である。

 音楽映画の醍醐味は何と言っても音と映像のマッチング、そこから生まれる高揚感、寂寥感、感動だと思う。

 例えば、オープニングのハイウェイを舞台にした大仕掛けのミュージカル・シーン。大渋滞で皆がうんざりしている中、カーラジオから流れてくる音楽をきっかけに見事な大演舞に発展する。ここなどは、いかにもミュージカル映画然としたカタルシスをもたらしてくれる。しかも、これがCGではなく本物の映像だというから凄い。相当念入りな準備がなければここまでスケール感のある映像は作り出せないだろう。

 また、クライマックスとも言える、ミアとセブの夢想シーン。これまで二人が歩んできた道程を流れるようなシーケンスで紡ぎながら物語を振り返り、いつしかそれは2人にとっての儚い夢へと昇華されていく場面。画面と劇伴の合わせ方も念入りに計算されており、深い感動を呼び起こす。

 また、撮影も素晴らしく、特に前半のミアとセブが夜のロスをバックに踊るシーンには息を飲んだ。遠くの空にうっすらと朝陽が昇り始め、それを背に二人は初めてダンスを踊る。ここは1カットで撮影されていて、CGで当て込んだ背景ではないということである。この瞬間、この場所でしか撮れない映像は、これこそ”映画”と思わせてくれる。

 映像のトーンは前半はポップでキャッチー、後半は渋いトーンに切り替わる。陽光眩しいロサンゼルスのハイウェイに始まり、パーティーに出かけるミアの華やかな色のドレス、パステル調な美術背景といった明るい色調は、終盤にいくにつれて暗く落ち着いたトーンに切り替わる。この切り替えはドラマのトーンに合わせたものであり、この色調計算も見事に行き届いていると思った。

 とにかく、映像、音に関しては、申し分ない出来栄えで、久々にミュージカル映画の醍醐味を味わせてくれるような作品だった。

 過去にはこうしたミュージカル映画がたくさん作られたが、現在ではジャンル自体が風前の灯火となっている。最近で思い出されるのは「レ・ミゼラブル」(2012米)ぐらいであろうか。アニメーションでは今でもディズニーが作っているが、実写映画ではほとんど見られなくなってしまった。
 しかも、本作は「レ・ミゼラブル」のようなリメイクでもなく、「シカゴ」(2002米)や「ドリームガールズ」(2006米)、「NINE」(2009米)のようなブロードウェイで上演された原作があるわけでもない。デイミアン・チャゼルのオリジナル脚本で作られた作品である。この事を考えると相当野心的な企画と言える。

 一方、ストーリーは実にシンプルかつ古典的なものである。いわゆるアメリカン・ドリーム的な明快な物語となっている。但し、ラストは決してハッピーエンドで終わっているわけではない。

 これはデイミアン・チャゼル監督が敢えてそうしているのだろう。
 というのも、前作「セッション」を思い出してもらえれば分かるが、主人公の青年はジャズドラマーになるために様々な物を犠牲にしてそれを成し遂げた。本作のミアとセブも、同じように理想と現実の狭間で揺れながら、最終的には互いの夢を実現することを成功させる。しかしその結果、様々な物も犠牲にした。「セッション」も「ラ・ラ・ランド」も、夢を手にすることは何かを失うことである‥と同じことを言っているのである。
 非常にシンプルでベタなドラマかもしれないが、単なる夢物語だけで終わらせるのではなく一定のリアリズムを持たせたところに監督のこだわりが感じられた。

 ただ、今回のストーリーは終盤に行くにつれややご都合主義が散見でき、そこには物申したい。いくら楽観的なミュージカル映画とはいえ、これは流石にないだろう。
 例えば、ミアは女優としての夢をいったん諦めるのだが、セブの後押しで最後のオーディションを受ける。これがトントン拍子に進む所に安易さを覚えた。セブの運命にしてもそうであるが、終盤にかけてやや乗り切れなかったのが残念である。

 尚、本作には様々な映画のオマージュが詰め込まれている。物語の舞台や設定は、名匠B・ワイルダーが監督した「サンセット大通り」(1950米)。クライマックスの夢想シーンは、それをベースに敷いたD・リンチ監督の怪作「マルホランド・ドライブ」(2001米仏)。ジャズ・ミュージシャンと女優の恋愛ということで言えば、M・スコセッシ監督の音楽映画「ニューヨーク・ニューヨーク」(1977米)。劇中にはJ・ディーンが主演した「理由なき反抗」(1955米)も出てくる。これらの作品を観ていれば思わずニヤリとさせられるだろう。

 キャストでは、ミア役を演じたエマ・ストーンのキュートな演技が印象に残った。彼女はデビュー当時からアイドル女優として大人気だったが、その後徐々に本格派として様々な作品で実績を積み上げてきた。ここにきて、それがついに花開いたと言える。本作で見事にアカデミー賞主演女優賞を獲得した。
 一方のセブ役R・ゴズリングも実際にピアノを弾きながら肩の力を抜いた好演を披露している。
 ただし、2人とも歌やダンスといった肉体表現に関して言えば、さすがに現役のミュージカル俳優と比べると見劣りする。冒頭のハイウェイに登場したエキストラの方が数倍迫力があったくらいで、このあたりは餅は餅屋ということであろう。往年のフレッド・アステアやジーン・ケリーのようにはいかない。
[ 2017/03/07 01:35 ] ジャンルロマンス | TB(0) | CM(0)

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