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はじまりのうた

爽やかに観れる音楽映画。
はじまりのうた BEGIN AGAIN [Blu-ray]
ポニーキャニオン (2015-10-07)
売り上げランキング: 1,772

「はじまりのうた」(2013米)星3
ジャンル人間ドラマ・ジャンル音楽
(あらすじ)
 かつて次々とヒットを飛ばした音楽プロデューサー、ダンは、今ではアルコールに溺れて家族と離れて暮す孤独の身である。ある夜、偶然入った小さなバーで田舎から出てきたシンガー・ソングライター、グレタの歌に心惹かれる。彼女は大人気ミュージシャンで恋人のデイヴに捨てられたばかりで失意のどん底にいた。ダンは彼女をレコード会社に売り込もうとするのだが…。

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(レビュー)
 全てを失った音楽プロデューサーと失恋した女性シンガーの再起を清々しいタッチで描いた音楽映画。

 監督・脚本は「シング・ストリート 未来へのうた」(2015アイルランド英米)「ONCE ダブリンの街角で」(2006アイルランド)のJ・カーニー。

 彼は自身でバンド活動をしていたことがあり、音楽に対する思い入れが相当強いのだと思う。その”熱”は過去の作品からダイレクトに伝わってきた。いずれも音楽、とりわけポップスをモティーフとした淡く切ない恋愛ドラマとなっている。
 そして、その素養は今回の作品にも色濃く出ている。音楽によって引き寄せられた男女の友情、奮闘を、時に切なく、時に微笑ましく描いている。

 ただ、「シング~」や「ONE~」に比べると、今回は非常に”ライト”に料理されている。おそらくこれはアメリカの俳優を起用したアメリカ資本の映画だからなのかもしれない。ビターなテイストは前面に主張されることなく、言ってしまえば大変上昇志向の強いドラマとなっている。

 例えば、映画はエンドクレジットでオチがつけられているが、ここなどを観ると本当に楽観的だ。見ようによっては、そんなに上手くいくわけないだろう‥と思ってしまう人もいるかもしれない。このエンドクレジットを描かなくてもドラマを完結させることは可能だったと思う。しかし、敢えて今回はこうした後日談的なオチを用意して映画の鑑賞感をまろやかな物にしている。

 あるいは、ダンの家庭内不和も割とアッサリとしか描写されていない。彼は別れた妻と時々会っているし、娘の学校の送り迎えもしている。そして、何だかんだと言いながら結構仲が良い。少なくとも冷え切った関係には見えない。

 また、J・カーニーの演出も小気味よくまとめられていて、グレタのバックバンドを集めるシークエンス、ニューヨークのストリートを巡りながら路上レコーディングをするシークエンス等、非常に軽快に捌かれている。特に、後者は後の「シング~」の路上レコーディングのシーンに継承されていると思うが、いずれにせよ全体的に大変ポップで見やすく作られている。

 どちらが良い悪いというわけではなく、明らかに今回は広く一般大衆を意識した作品作りを心掛けているように思った。

 物語も明快な再生ドラマとなっている。ただし、今回は単純にグレタが音楽業界でのし上がっていく‥というサクセス・ストーリーではなく、商業主義に溺れることなく彼女自身の意志で”第三の道”を切り開いていく‥といったドラマとなっている。欲に目が眩むことなく純粋に音楽を愛し、そこから地道な成功を掴み取る‥というドラマには好感が持てた。中々に骨のあるドラマと言っていいだろう。

 また、ダンとグレタの出会いを、視点を切り替えて見せるテクニカルな構成も面白い。先日観た「ラ・ラ・ランド」(2015米)でもこうした構成をとっていたが、観客を引き付けるという意味では大変上手いやり方である。二人の出会いに奇跡的な運命性を持たせる‥という意味でもドラマチックさが増して良い。

 また、サブストーリーとして描かれる、グレタと元バンドメンバーの友情も微笑ましく観れた。2人の関係をもう少しなぞっても面白かったかもしれない。

 このように全体的にウィルメイドに作られているが、こうした気遣いを配した構成、サブストーリーが作品を飽きさせないものにしている。これまで観てきた作品同様、今回も最後まで面白く見ることが出来た。

 キャストでは、ダンを演じたM・ラファロの演技が素晴らしかった。「スポットライト 世紀のスクープ」(2015米)や「ゾディアック」(2006米)のようなシリアスな作品で渋い演技を見せる一方で、こうした軽いノリの男をやらせても中々にハマる俳優である。硬軟自在の演技は要所を締めており、一番印象深かったのは、デモCDを会社の重役に聴かせた後のシーン。グレタと別れる時に見せた表情である。ルーザー特有の影を忍ばせた演技が絶品だった。

 グレタ役のC・ナイトレイも堅実である。但し、吹き替えなしで挑んだ歌唱については、それほど上手いとは思えなかった。切々と歌う姿は素朴で好感が持てるが、ダンが見出すほどの才能があるか‥と言われると少々物足りない。

 「ONCE~」は音楽の力だけでグイグイと引っ張るような作品だった。しかし、本作はそうした力強さはない。肝心の音楽に説得力が欠けていたのが残念である。そこが備わっていれば、本作はもっと素晴らしい作品になっていただろう。 
[ 2017/03/12 01:07 ] ジャンル人間ドラマ | TB(0) | CM(0)

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