未ソフト化作品だが痛快娯楽作として多くの人に楽しんでもらいたい作品。
「大学の山賊たち」(1960日)
ジャンルコメディ・ジャンルサスペンス
(あらすじ) 北アルプスに登山に出かけた大学の山岳部が、5人組の女性登山チームと遭遇する。彼女たちは東京のデパートに勤める女子社員で、休暇で山登りを楽しんでいた。 意気投合した彼らは行動を共にすることになる。すると、彼らの前に一人の中年男性が現れる。彼は女子社員たちが勤める会社のオーナーだった。一同は日が暮れたので近くの山荘で一夜を明かすことにした。そこは美しい未亡人と下男が住む古いロッジだった。実は、社長はホテル建設のためにこの山荘を買収しようと計画していた。未亡人は、そんな彼を亡くなった夫と瓜二つだったために完全に夫だと信じ込んでしまう。
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(レビュー) 壮大な雪山を舞台にしたサスペンス・コメディ。
当時はスキーブームだったらしく、本作その流行に合わせて作られた映画である。しかし、そうした即物的な企画から出発した作品とはいえ、中々どうして。かなり上手く作られている。
監督は岡本喜八。脚本は同氏と関沢新一が担当している。
岡本喜八の切れのある演出は今回も絶好調で、氏のファンなら間違いなく楽しめる作品となっている。尚、残念ながら本作はソフト化されていない。豪華な俳優陣が揃っているのでぜひソフト化を希望したい。そして多くの人に楽しんでもらいたい。
何と言っても、本作は二転三転するストーリー、個性的な人物の掛け合いが面白い。更に、そこに未亡人の勘違い(サイコパス的と言ってもいいが‥)から始まる幽霊騒動が絡んできて、最後は「ゴースト/ニューヨークの幻」(1990米)よろしくホロリとさせるような展開も用意されている。かなり勢いのあるハイテンション・ムービーだが、一定の味わいを持った傑作となっている。
岡本喜八と共に脚本を担当した関沢新一は、主に東宝特撮映画の脚本を手掛けてきた人間だが、ジャンルにとらわれることなく幅広く活躍したシナリオライターである。以前紹介した
「キングコング対ゴジラ」(1962日)の軽妙な会話の数々も彼の仕事である。岡本喜八とのコンビでは
「独立愚連隊西へ」(1960日)や
「戦国野郎」(1963日)などの脚本を手掛けている。
とにかく軽妙な会話、軽快なテンポが、この人の一つの特徴のように思う。
もちろん、これは監督である岡本喜八の特徴でもあるわけだが、そういう意味で言えばこのコンビは結構合っているように思った。
また、個性的なキャラクターが夫々に良く出来ていて、山岳部の連中は全員あだ名で呼ばれている。リーダーは「お頭」、お堅い性格の「税務署」、食欲旺盛な「胃袋」、医者の卵の「ギネ」等、実に分かりやすい。一方の女性社員たちも個性豊かで、彼女たちは働く売り場にちなんで夫々に社長からニックネームを付けられる。男子チームと女子チームの掛け合いは丁度、学園ドラマのようなノリ、あるいは合コン的なノリと言っても良いかもしれないが、これが映画全体を軽快なリズムにしている。
途中から登場する南国の皇太子に扮した2人組のギャング団も良い味を出していた。彼らの存在がドラマにサスペンスをもたらしストーリーを予期せぬ方向へと展開させていく。彼らは決して冷酷非道な極悪人というわけではなく、ちょっぴりドジな所があり、そこも含めて”愛すべき”キャラクターとして上手くさじ加減されていると思った。
そして、メインの物語の傍らで展開される未亡人と社長と亡き夫の幽霊が織りなすナンセンスでファンタジックな関係。これも観てて終始楽しかった。幽霊の登場シーンがやや無頓着に演出されているのは興醒めだったが、そこを除けばこの幽霊騒動は大変味わい深く見れた。
上映時間は90分強。これだけタイトにまとめることが出来たのは、軽快な喜八演出の成せる技だろう。会話の間を極力切り詰めて、カット割りはスピーディーに、中にはセリフではなくミュージカルで説明してしまうような場面もあり、色々と工夫が凝らされている。
そして、ともすればこういう作品は画面の流れを眺めるだけ‥となりがちだが、要所に”ヒューマニズム”や”ロマンス”といった抒情性を挿入し、それによってトーンの緩急を付けて上手く観客の興味を引き付けることに成功している。
”ヒューマニズム”に関して言えば、負傷した強盗犯を救うかどうかで意見を対立させる場面。ギネやリーダーを含めた登場人物たちがシリアスな葛藤を見せる。
”ロマンス”ということで言えば、未亡人が社長に寄せるかすかな愛情がそうである。二人の関係は終盤にかけて、”動”の演出を封印し静かで落ち着いたトーンで語られており、これも味わいがあった。
キャストでは、いわゆる喜八組と呼ばれる面々、佐藤允、中丸忠雄は勝手知ったるという感じで敵役だった。他に山崎努やミッキー・カーチス、白川由美、越路吹雪、上原謙といった豪華な布陣が揃えられてる。中でも上原謙は社長と幽霊の一人二役を楽しそうに演じていたのが印象的だった。また、鶴田浩二が特別出演をしているのも見所である。