職業物としての面白さと普遍的な立志のドラマが見事に融合した好編。
東宝 (2014-11-19)
売り上げランキング: 8,137
「WOOD JOB(ウッジョブ!)~神去なあなあ日常~」(2014日)
ジャンルコメディ・ジャンルロマンス・ジャンル青春ドラマ
(あらすじ) 大学受験に失敗して何の目的も持てないまま堕落した日々を送っていた青年・勇気は、ある日ふと目にした林業研修のパンフレットに引き寄せられる。そこには美しく微笑む女性の姿があった。彼女に一目惚れした勇気は1年間の“林業研修プログラム”に参加することにした。しかし、向かった先は携帯の電波も届かない山奥、神去村(かむさりむら)だった。しかも、そこで待っていたのは表紙の美女ではなく、粗野な先輩・飯田ヨキだった。あまりにも過酷な林業の仕事に耐えかねた勇気は逃げ出そうとするのだが…。
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(レビュー) 「風が強く吹いている」(2009日)、
「まほろ駅前多田便利軒」(2011日)、
「舟を編む」(2013日)と次々と映画化されている人気作家・三浦しをんの小説「神去なあなあ日常」を
「ハッピーフライト」(2008日)の矢口史靖が監督した青春コメディ。
何事に対しても無気力な都会の青年が、過酷な林業の仕事を体験しながら徐々に逞しく成長していく姿を笑いと感動で綴ったストーリーである。後味爽やかな鑑賞感が観てて気持ちが良かった。
監督の矢口監督はこれまでは全てオリジナル脚本で撮ってきたが、今回初めて原作物に挑戦している。おそらくだが、相当脚本作りにはこだわっていると思われるが、ただ賛否で言えばかなり意見が分かれる作品もあり、デビュー当時などはブラックでネガティヴな青春ドラマも撮っていた。しかし、いわゆるメジャー監督として頭角を現して以降は、本作のようなライトコメディを得意としている。個人的には、やはり氏の真骨頂はこうした明朗なコメディ作品でこそ真価を発揮するように思う。
その好例が「ウォーターボーイズ」(2001日)や「スイングガールズ」(2004日)といった作品である。この2本は興行的にも大ヒットを記録し、テレビシリーズ化もされ、氏の名前を一躍メジャーにした。実は、これらの作品を撮ってきた経緯を考えると、今回の原作がその延長線上にあることがよく分かる。いわゆる王道を行くような青春サクセス・ストーリーとなっているのである。
キャラ造形、ドラマ運び、演出も、これまで通り戯画に傾倒しており、いわゆるリアリティのある人間ドラマとは一線を画した独特のテイストとなっている。
勇気と飯田の間に信頼関係が築かれていく過程、勇気と直己の恋愛関係などが大変流暢に描かれている。
例えば、飯田が寝ている勇気の枕を蹴って起こすシーンの反復。何回も繰り返されるが、ある日勇気は一人で起きられるようになる。この時の飯田の驚いたリアクションは最高に可笑しかった。都会のぬるま湯に浸かってきた勇気のささやかな成長が、このシーンには上手く表現されている。
あるいは、村中が勇気の村祭り参加に反対する中、飯田だけが擁護するシーン。普段は厳しいことを言っていても、心の底では勇気の身を案じている。そんな優しい先輩振りが見てて実に微笑ましかった。
勇気と直己の恋愛も基本的にはコミカルに描写されている。例えば、勇気が雨に濡れた直己にタオルを貸す車中のシーン。少しだけ良い雰囲気になりかけると、その直後に二人はすぐ喧嘩をしてしまう。このやり取りも凄く自然で良かった。しかも、このタオルが後の伏線となっているのも上手い。
このように、この映画は全編、演出が軽妙なのでストレスなく観れるように作られている。このあたりの矢口監督の手腕は見事というほかなく、もはや職人芸の域に達していると言っても過言ではないだろう。
いつもの”矢口節”と言われればその通りだが、一芸に秀でた作家と言うのは強いものである。今回も氏の資質を十分に堪能することが出来た。
展開もウェルメイドで、こうなって欲しいという所へ転がっていくので、ストレスフリーで観れる。林業のことを何も知らなかった勇気が、山の”神”に触れ、村人の一員となり、最後は期せずして祭りの主役になってしまう大団円。実に上手くまとめられている。
そして、この大団円には勇気の”山男”としての確かな成長と、一目惚れした直己とのロマンス成就という達成感。この二つが見事に集約されている。少々やり過ぎとも思える派手なCGは、本作がコメディであることを考えれば許容範囲であろう。カタルシスも十分で爆笑必至なシーンとなっている。
更に、その後に続くオチも”奥ゆかしくて”良かった。クライマックスが派手な分、ここはこのくらい抑えめにしてくれると観ている方としてもありがたい。余韻を引くエンディングがこのドラマを愛おしく振り返らせてくれる。
一方、どうしても不自然に映った箇所があり、そこについては首を傾げたくなった。
それは勇気の学生時代の友人たちが林業の見学にやって来て、皆でバーベキューをするシーンである。彼らは社会見学の一環ということで来たのであるが、その割に決して礼節を弁えているとは言い難い。確かに汗水流して働く林業の仕事はスマートとは言えないかもしれない。口にこそ出して言わないが、何となくバカにしているような、そんな彼らの気持ちが周囲に伝わってしまう。それにカチンときた飯田は切れてしまう。そして、その憤りは勇気も一緒で、ついカッとなって彼らに「帰れ!」と怒鳴ってしまう。友人たちは勇気のその一言ですごすごとその場から立ち去ってしまう。しかし、ここはどうにも性急な演出に見えてしまった。勇気の一喝で友人たちがまるでロボットのように退場してしまうのが味気ない。
キャストでは、飯田を演じた伊藤英明が強烈な印象を残している。
「悪の教典」(2012日)で見せたラジカルな教師役も凄かったが、こうした尖った演技をやらせると中々にアクの強い”怪優”に豹変するから面白い。大木を伐採する時の演技も様になっているし、逞しい裸体を披露し”山の男”になり切った役作りは大したものである。他には、マキタスポーツ、光石研といった個性派俳優陣も良い味を出していた。