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クズとブスとゲス

文字通りクズでブスでゲスイ連中しか登場してこない完全なる悪道映画。
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「クズとブスとゲス」(2015日)星3
ジャンルサスペンス
(あらすじ)
 母と2人暮らしの無職のスキンヘッド男は、行きつけのカフェで孤独そうな女性客を見ると、言葉巧みに誘惑して裸の写真を撮って脅迫していた。あの夜、いつものように女を捕まえるが、その女がヤクザの下で働く商売女だったために逆に窮地に追い込まれる。ヤクザに1週間以内に200万円を払わないと殺すと脅される。その頃、前科者のリーゼント男は、会社の面接に向うも悪態をついて不合格となってしまう。恋人が待つアパートへ帰宅すると、明日が誕生日だと言われて困惑する。彼女を祝ってやる金もなかったからだ。後日、馴染のバーへ行くと旧知のマスターからヤクの密売の仕事を依頼される。リーゼント男は止む無くそれを引き受けることにするのだが‥。

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(レビュー)
 数奇な運命に呑み込まれていく人々の非情な姿を激しいバイオレンスを交えながら描いた犯罪映画。

 「クズとブスとゲス」という奇妙なタイトルが目を引くが、正しく本作に登場するキャラクターは皆「クズでブスでゲス」な人間たちばかりである。

 特に、主人公のスキンヘッド男は一度見たら忘れられない強烈な外見をしている。演じるのは本作で監督・脚本を務める奥田庸介。彼が画面に登場するだけで何かヤバいことが起こりそうな、そんな不安と緊張に襲われ最後まで気の抜けない作品となっている。
 ちなみに、本作は彼の長編2作目ということだ。

 物語は、スキンヘッド男がヤクザの商売女に手を出して窮地に追い込まれていくドラマ。それと、恋人の誕生日のために金策に奔走するリーゼント男のドラマ。この二つで構成されている。映画前半は夫々のストーリーが並行して描かれるが、中盤でこの二つが交錯する。2人には共通する知人がいて、彼を介して皮肉的な運命の巡り合わせで引き寄せられてしまう。そして、映画の最後はこの二つが意外な形で融合し、どこか虚無感漂う幕引きによって締めくくられている。物語自体はシンプルでとても分かりやすかった。

 ただし、本作はこの危険で邪悪なタイトルから想像できるように、決して見てて気持ちの良い映画ではない。

 スキンヘッド男は、ナンパした女性を薬漬けにしてヌード写真を撮って脅迫するし、出所不明の大麻を堂々と持ち歩いて売り捌くし、アル中の母親の指を包丁で切り落とそうとするし、道徳や良心と言った物が一かけらもない男である。これを見て彼に感情移入しろというのは到底ムリだろう。

 方や、もう一人の主人公、リーゼント男も、せっかく受けた会社の面接でわざと難癖付けて落ちたり、恋人のためにと言いつつ一向に就活する様子も見せないし、挙句の果てにヤクの売人に成り下がってしまう。こちらも極めて幼稚な男で、見ててイラつくばかりだった。

 更に、本作にはもう一人クズな男が登場してくる。それはスキンヘッド男を脅迫するヤクザのボスである。彼は妻と死別して高校生になる一人息子と暮している。息子との関係は完全に冷え切っていて一言も会話がない。それでも彼は優しい父親を演じようとするのだが、誰がヤクザの父に敬意を払えよう…。息子の荒んだ目が痛々しく父を突き放す。終盤のスーパーのシーンは傑作だった。万引きをした息子のために店長に平謝りする姿が実に滑稽だった。

 このように、本作にはロクでもない連中しか出てこない。しかも、彼らは改心するどころか、むしろどんどんダメな方向へと突っ走て行き、最後まで誰も報われないまま終わってしまうのである。
 タイトルの「クズとブスとゲス」とは正に言い得て妙である。見ててムカつくだけ、不快極まりない‥。そんな風に思う人はたくさんいるだろう。

 逆に、ここまで悪漢を尽くした作品はそうそうないという点で、これは他に類を見ない非常に稀有な作品とも言える。
 ロクでもない連中がロクでもない行動に突っ走り、最終的には内輪もめのような形で対立しあいながら、なし崩し的な形で活路を見出すという物語‥。ドラマどうこういうのは置いておき、監督の訴えたいもの、狙いみたいなものは決して悪くはないと思った。第一、かなり挑戦的な映画である。
 我々の一般的な倫理観や道徳観をこれ見よがしに吹き飛ばしながら、ひたすらその価値観を挑発するというスタイル。ある種ブラックコメディとして観れば、中々面白いのではないだろうか?

 現に、この映画は中盤まではかなりシリアスなトーンで描かれているが、リーゼント男の恋人が転落して以降、急にコメディ色が強まってくる。恋人を追ってリーゼント男がホテルに入っていくシーンなどは、明らかにギャグっぽく撮られているし、終盤のスキンヘッド男の逆襲などは、どう見ても笑いを取ろうという狙いが感じられる。ドラム缶に圧死するヤクザの子分の姿も単純に笑えてしまった。 こうした毒っ気のあるコメディトーンは、全体の陰惨なドラマを幾ばくか和らげる効果があり、そこまで眉をひそめながら見るタイプの作品ではないのではないか‥とも思える。

 奥田監督の演出は荒削りで拙い部分もあるが、勢いに任せた”熱度”みたいなものが画面全体から感じられた。特に、バイオレンスシーンにおける容赦のない描き方には目を見張るものがあった。これは演者たちの熱演、特に監督自身が演じた主人公の血涙を流した演技も奏功している。この身体を張った演技を見ても、彼がどれだけ本作に強い思いをかけて撮っているのかが分かる。
 一方、アナクロ風味な臭い演出が幾つか見られたのは残念だった。一番それを強く感じたのはリーゼント男にまつわるシーンである。このあたりはパロディとして狙ってやっているのかもしれないが、セリフ一つ取ってみても今時そんな大仰な話し方はしないだろうと苦笑してしまうし、見るからにオラオラ系なファッションもカリカチュアがきつい。この辺りは全体のバランスから言って少々違和感を覚えた。
 また、2度に渡って登場するチンドン屋も奇をてらい過ぎである。全体の物語から乖離した演出で全く持って意味不明だった。
[ 2017/04/21 23:55 ] ジャンルサスペンス | TB(0) | CM(0)

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