イケてない女子高生の等身大の姿が微笑ましく映る。
「スウィート17モンスター」(2016米)
ジャンル青春ドラマ・ジャンルコメディ
(あらすじ) 小さい頃からイケてない自分に自己嫌悪していた少女ネイディーンは、ようやくクリスタという親友を得て充実した学園生活を送るようになる。ところが、最大の理解者だった父を事故で亡くして、再び彼女の日常は暗転してしまう。しかも、クリスタがイケメンの兄ダリアンと付き合うことになり彼女の孤独はますます深まっていく。
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(レビュー) 冴えない女子高生の内面をユーモアとペーソスを交えて描いた青春ドラマ。
主人公ネイディーンは、小さい頃からイケてる兄ダリアンに対するコンプレックスから完全に卑屈になってしまっている。この兄との関係が本ドラマのポイントであり、いつ彼と理解し合える日がくるのか?そこをメインに興味深く見ることが出来た。
延々とネイディーンの鬱屈した心情がモノローグと共に語られるので、正直、観ている最中はかなりストレスのかかるドラマである。ネイディーンを見てイラつく、可愛くないと思う人も多いと思う。しかし、翻ってこの頃の自分に照らし合わせてみたらどうだろう?ここまでコンプレックスをこじらせてはいないかもしれないが、少なからず彼女に似た感情を抱いた経験はあるのではないだろうか。周囲と自分を比較して自己嫌悪に陥ったり、夢見た理想に裏切られたり等々。こういう経験がある人には、本作のネイディーンの苦しみは身近に感じられるのではないかと思う。
例えば、劇中にはこんなシーンが登場してくる。
ネイディーンはダリアンとクリスタに連れられて嫌々パーティーに出かける。案の定、ダリアンたちは皆と楽しく騒ぎ、自分は完全に蚊帳の外に置かれてしまう。親友が他の友達と仲良くしている所を見て嫉妬する‥。このシーンは正にそれである。自分は学生時代に似たような経験をしたことがあった。
あるいは、憧れの異性にフラれる悲しみ。これも誰にでも経験があるのではないだろうか?ネイディーンは学校で見かける男子生徒に恋焦がれる。しかし、直接声をかける勇気がなくSNSでフレンド申請をするばかり。しかし、てんで相手にされない。映画の後半で、彼女はあることが原因で半ばブチ切れて彼宛にセクシーなメールを誤送してしまう。しかし、これが功を奏しネイディーンは彼にデートに誘われる。この後は映画を観てのお楽しみだが、結果はネイディーンにとって非常に辛い失恋に終わってしまう。こうしたほろ苦い初恋の経験は誰の中にも埋もれているような気がする。
確かにネイディーンは稚拙で我儘な少女かも知れない。しかし、この年頃の少年、少女とはこういうものではないかと思う。そう考えると、何だか本作の彼女がどこか愛おしくさえ見えてくる。出来の悪い子を見る親の心境、あるいは過去の自分を見ているかのような感じで本作を楽しむことが出来た。
ラストは、メインのドラマである兄との関係を軸に据えながら上手くまとめられていると思った。目の前の霧が晴れて少しだけ新しい世界が開けていくラストが良い。少々出来すぎな感じがしなくもないが、それを差し引いても、このエンディングにはホッと安堵させられた。
この映画でネイディーンと兄の関係以外にもう一つ印象に残ったことがある。それは彼女と母との関係である。
しかして、その顛末は終盤に訪れる。ここで母はネイディーンに送信するメールを何度も書き直していた。この一連の描写を見て、自分は二人の間に確かな信頼関係が結ばれたんだな‥ということ実感した。あなたの考えるとおりにしなさい。この苦しみを乗り越えたのだから、これからの人生はきっと安泰よ。母が送ったメールから、そんな彼女の励ましの声が読み取れる。実にしみじみとさせられた。
監督・脚本は本作が長編処女作となる女流監督ということだ。ポップな音楽の使い方や軽妙な会話等、いかにもアメリカ産青春映画然とした作りになっている。想起されるのは、同じような負け組女子高生同士の友情を描いた「ゴーストワールド」(2001米)や、先日観た
「ウォールフラワー」(2012米)といった作品である。いずれも冴えないティーンエイジャーを主人公に据えたドラマである。ポップさとほろ苦さが混在したテイストも共通している。
一方、本作で少し残念に思ったのは一部の設定である。観てて疑問を持ってしまう所があり、そこは観てて余り乗れなかった。
まず、メインの登場人物がいずれもそこそこ裕福であるという点に引っ掛かりを覚えた。ネイディーンの家庭は父を亡くして収入は激減しているはずである。母はかなり稼ぎのある働き人のようだが、それでプール付きの邸宅を維持できるのだろうか?ネイディーンに好意を寄せる韓国人の男子生徒も豪勢な家に住んでいる。彼は自主製作でアニメ映画を作っているような、いわゆる経済的には何不自由しないボンボンである。このキャラがかなり鼻についてしまった。結果、彼が関与するラストにも今一つ釈然としない思いが残った。
キャストでは、ネイディーンを演じたヘイリー・スタインフェルドが印象に残った。彼女は映画デビュー作である
「トゥルー・グリット」(2010米)でいきなりアカデミー賞の候補になったシンデレラ・ガールである。あの頃から随分と大人っぽくなっており、声も野太い声に変わっていて驚かされた。彼女は元々顔立ちが美形というわけではないので、今回のようなキャラは敵役だと思う。
彼女の担任教師を演じたW・ハレルソンも良い味を出していた。彼は元来エッジの効いた演技を得意とする俳優なのだが、今回は肩の力を抜いた妙演を披露している。かなり風変わりなアウトローといった雰囲気を醸してはいるものの、時折見せるオフビートなユーモアに和まされる。ネイディーンと交流を深めていく姿が微笑ましく観れた。