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LION ライオン~25年目のただいま~

感動の実話。
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「LIONライオン~25年目のただいま~」(2016豪)星3
ジャンル人間ドラマ
(あらすじ)
 インドの田舎町に生まれた少年サルーは、不運が重なり兄とはぐれてたったひとりで回送列車に閉じ込められ遥か遠くの街へと運ばれてしまった。そして、言葉も通じない大都会で過酷な放浪をした末に、オーストラリア人夫婦の養子として引き取られる。それから20年後、サルーは立派な青年に成長し大学に進学した。しかし、未だに故郷のことを忘れることが出来ず、たびたび母や兄の夢を見るのだった。

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(レビュー)
 幼い頃に家族と離れ離れになってしまった少年が辿る数奇な運命を感動的に綴った人間ドラマ。実話の映画化である。

 サルーは養子として幸せな暮らしを送っていたが、どうしても故郷のことが忘れられず生き別れになった母や兄にもう一度会いたいという衝動に駆られる。結果、大学や恋人を捨てて故郷探しにのめり込んでいくようになる。彼は時々、行方不明になった自分を探して回る兄の姿を夢に見る。過去の思い出はそれほどまでに彼の心に重くのしかかっていたのだろう。

 しかして、映画のラストは、その”過去”への回帰になるのだが、これには確かに感動させられた。夢の中に見ていた兄の姿をそのまま持ってきた所が白眉である。

 全体的に映像の美しさ、演者の好演も申し分なく、完成度が非常に高い作品である。しかも、サルーが故郷を見つけ出すのにグーグル・アースを活用するというのも現代的な知恵で面白い。映画の中でネットと言えば何かと悪い道具として利用されることが多いが、それをこういう形で登場させた所に好感を持った。

 ただし、個人的にこの映画はサルーに感情移入するところまではいかなかった。感動できたのは、あくまでサルーと兄の関係であり、彼の喪失感、故郷への憧憬といった感情には今一つ入り込むまでにはいかなかった。
 果たして自分だったらどうだろう?何一つ不自由のない暮らしを捨ててまで過去にしがみつくだろうか?という気持ちが先立ち、途中からこのドラマを俯瞰的な視点でしか見ることができなかったからである。

 本作はサルーの少年期をかなり丁寧に掘り下げている。彼がいかにして過酷なサバイバルを乗り越えて成長してきたか。それがよく分かるように作られている。数々のエピソードを丁寧に積み上げたことで、見事にサルーのキャラクターにリアリティを持たせている。
 そういう意味では、彼の家族に対する強い思いというのはよく理解できる。しかし、それは分かるのだが、自分の身に置き換えるとどうしても彼にシンパシーを持つまでに至らなかった。あそこまで一心不乱に故郷探しにのめり込んでいくのを見ると、感情移入するどころか、どこか病的な男にさえ思えてしまう。

 もっとも、逆に言えば、あそこまで本気にならなければ”軌跡”など起こせない、ということなのだろうが…。

 また、本作を見て引っかかる箇所が2点あった。
 一つ目は、サルーの養父母が自分の子供を作らず敢えて養子をもらった理由である。映画の後半でそれは養母の口から説明されるのだが、この考え方には違和感を覚えた。実話なのだから仕方がないし、否定すべきでもないのだが、個人的には理解しがたい思考である。

 二つ目は、エンドクレジットの後に出る日本ユニセフの募金の呼びかけである。確かにサルーのような孤児が世界中にたくさんいるというのは分かる。しかし、本作はそこを訴えているわけではないと思う。テーマは、彼が本来の家族を取り戻すという、言わば家族愛のドラマである。そこにこうしたクレジットが出てくると、感動に水を差すだけなのでやめていただきたい。映画の本文とは何の関係もない。

 尚、本作にはサルー以外にもう一人養子が登場してくる。サルーと同じインドからやって来たマントッシュという少年である。おそらく彼も相当辛い過去を辿って来たのだろう。しかし、彼はサルーと真逆の人生を歩んでしまう。養父母との関係を断絶しドラッグに溺れて、ひたすら孤独の沼に溺れてしまうのだ。彼は時々自分の頭を叩くような真似をするが、これは自傷行為の一種であろう。元々精神的に疾患を持っていたのかもしれない。
 サルーが過去の苦しみを克服できたのに対して、マントッシュはそれが出来なかった者である。過去から抜け出せないまま人生を狂わされてしまった、ある意味でもう一人の影の主役だったのかもしれない。劇中では彼のその後が描かれていなかったが、個人的にはこちらも大変気になった。

 監督は本作が長編処女作となるガース・デイヴィス。自然な場面転換や抑揚を効かせた演出は処女長編と思えぬほど手練れていて感心させられた。映画前半はインドを舞台にしたドラマ。後半はオーストラリアを舞台にしたドラマである。インドが舞台と言えば、D・ボイル監督が撮った「スラムドック$ミリオネア」(2008英米)が思い出されるが、それにも共通するようなスケール感、大河ドラマ的な見応えが感じられた。
 尚、氏の次回作も決まっていて、主演には本作にも出演したルーニー・マーラが抜擢されるということらしい。これは今から非常に楽しみである。
[ 2017/05/11 01:51 ] ジャンル人間ドラマ | TB(0) | CM(0)

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