世界中でヒットした傑作青春映画20年ぶりの続編。
「T2 トレインスポッティング」(2017英)
ジャンル人間ドラマ
(あらすじ) スコットランドのエディンバラに、仲間を裏切って大金を持ち逃げしたマーク・レントンが20年ぶりに帰郷する。母は既に他界しており、実家には年老いた父が一人で住んでいた。一方、悪友のジャンキー、スパッドは妻子に愛想を尽かされ自殺しようとしていた。シック・ボーイことサイモンは、パブを経営する裏で恋人ベロニカを使って売春やゆすりに手を染めていた。そして、血の気の多い男ベグビーは殺人を犯して服役中だった。レントンは彼らに会って過去の清算をしようとするのだが…。
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(レビュー) 単館系ブームに乗って公開され、瞬く間に若者たちを中心に話題を呼んで大ヒットを記録した青春映画「トレインスポッティング」(1996英)の続編。20年ぶりに同じ監督、キャストが集まって作られた作品である。
自分も例に漏れず「トレインスポッティング」、通称「トレスポ」にハマった口である。あの当時はミニシアター・ブーム真っ只中で、特に渋谷の単館系は軒並み活況を得ていた。劇中で使用されたUKポップもヒットチャートを駆け上り、「トレスポ」は正に時代の潮流に乗った映画だったように思う。これ以降、イギリス映画は日本でかなり注目されるようになり、「ブラス!」(1996英)、「フル・モンティ」(1997英)、「ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ」(1998英)と立て続けに公開され、夫々にロングランになり興行的な成功を収めた。これらはすべて「トレスポ」の成功があったからだろう。
そんな一時代を築いた傑作青春映画が、時代を超えて同じキャストによって作られた。かつて「トレスポ」に心酔したファンであれば観ないわけにはいかない。鑑賞前からかなりハードルを上げて観た。
結論から言うと、さすがにあの当時の勢い、刺激性、インパクトは感じられなかったものの、続編として見れば至極まっとうに作られており、かつて熱狂したファンに向けたサービスも旺盛でエンタテインメントとして十分面白く観ることができた。
お馴染みの面々がヤクを決めたり、強盗に入ったり、喧嘩をしたり、昔と何も変わっていないのが凄い。正直、20年という歳月を経て何か新しい”変化”を見せて欲しいという思いもあったのだが、これも「トレスポ」らしいと言えば”らしい”。かつて観たファンにはノスタルジーに浸りながら楽しく観ることができた。
もっとも、今回の新作に全然”変化”がないのかと言うと、そういうわけではない。今回は、シックボーイの恋人として、ベロニカという新しいヒロインが登場してくる。彼女はレントンたちに比べると一回りくらい若い娘で、オッサンたちの輪に入って新しい風を吹き込んでいる。そして、レントンたちとの世代間ギャップを至る場面で演出し、彼らの”時代に取り残された感”を徹底的に皮肉って見せている。
つまり、彼女を登場させたことによって、本作はレントンたちの”変化”ではなく、周囲の環境や社会の”変化”を表現した所が一つの妙味となっているのだ。
例えば、クレジットカードは署名の時代じゃない。メールやSNSが人間関係を空疎にした。こうした中年の愚痴がいたる所で吐露されている。それは永遠に変わらないボンクラたちの悲哀の連呼かもしれないが、しかし時代の”変化”に抗うその生き様は、かつて第1作を見たアラフォー&アラフィフ世代の胸に強く響き、彼らを永遠に変わらぬ”アウトサイダー”のように見せている。ここが今回の続編の肝で、かつて夢を追いかけていた”あの頃”に我々を戻してくれるのだ。とても”優しい”映画だと思う。
監督はD・ボイル。脚本はジョン・ホッジ。前作と同じ布陣なので作品のテイストはほぼ一緒である。
軽快でキャッチーな映像演出は相変わらず絶好調で単純に見てて心地よかった。このあたりはD・ボイルの手腕である。
また、20年前の映像を巧みに挿入する小技もうまく効いていて、かつてのファンなら思わずニンマリすることだろう。現在と過去が見事にオーバーラップするセルフ・オマージュが頻出し、これも”変化しない”レントンたちを愛おしく見せている。
そういうわけで、今作は前作を観てから鑑賞した方が断然楽しめると思う。予備知識がないと分からないシーンもあるので、ぜひ前作から観て欲しい。
本シリーズのもう一つの重要な要素は音楽である。これも今回は力が入っている。
ただ、前作は同時代的なヒットソングが名を連ねていたが、今回はそれとはかなり傾向が違う。現代のミュージシャンの曲も流れるには流れるが、それはほんの一部で、基本的には前作でヒットしたアンダーワールドの「ボーン・スリッピー」やイギー・ポップの「ラスト・フォー・ライフ」のリミックス、更にはもう少し古いクラッシュやクィーンなどが流れる。これらは、時代に取り残されたレントンたちの姿に重なるように敢えて選曲しているのだろう。よく考えられている。
キャストも夫々に好演している。さすがに20年も経てば顔の皺が目立つし、頭髪は後退し、白髪も多くなっている。ただ、レントン役のY・マクレガーだけは他の俳優陣に比べると少し若々しく映った。
更に20年後、彼らはどんなふうに年を取っているのだろうか?今回の作品を観るとそんな思いにさせられる。20年後とまでは言わないから、いずれまた同じメンバーが揃って続編を作って欲しいものである。