刑事と強盗犯の戦いを時にアツく、時にクールに描いたアクション巨編。

「ヒート」(1995米)
ジャンルアクション・ジャンルサスペンス
(あらすじ) 強盗のプロ、マッコーリーは、クリス、チェリト等と現金輸送車を襲撃し有価証券を強奪した。しかし、仲間の一人ウェングローが逆上して警備員を射殺して一人で逃走してしまった。事件後、現場に急行したロス市警のヴィンセント刑事は、少ない手掛かりからマッコリーの追跡を開始する。一方、マッコーリーたちはウェングローを捕まえようと奔走する。その先でマッコリーは本屋の女性店員イーディと出逢い一時の幸福を手に入れる。そして、彼は次なる強盗計画を打ち立てるのだが…。
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(レビュー) 孤独な強盗犯と刑事が壮絶な戦いを繰り広げるアクション巨編。
マッコリー役はR・デ・ニーロ、ヴィンセント役はA・パチーノ。この二人が共演するのは「ゴッドファーザーPARTⅡ」(1974米)以来ということになろうか‥。言わずと知れた名優同士であるが、今回のドラマはその二人が敵同士になってあいまみえる‥というドラマになっている。本作はこのキャスティングの魅力が大変大きいように思う。
2人の熾烈を極める戦いは、中盤の市街地での豪快な銃撃戦を経て、最終的には夜の飛行場を舞台にした戦いへと突入していく。正に男の意地とプライドをかけた攻防は、文字通り豪華スターのガチンコバトル。非常に見応えがあった。
特に、市街地での銃撃戦はアクション映画史に残る名シーンとして語り継がれており、今見ても十分の迫力がある。今のようなCGI全盛の時代であれば何のことはないように見えるかもしれないが、当時はそういった技術もないのですべてアナログで撮影された。これだけ大掛かりなロケ撮影は、戦争映画を除けば、おそらく今後も作られることはないだろう。それくらい見応えのある銃撃戦となっている。
加えて、このシーンはよく聞いていると銃の音も夫々に微妙に違う。音響にもかなりこだわりが感じられる。
製作、監督、脚本はマイケル・マン。彼はガンアクションに定評のある監督で、好事家の間ではかなりのマニアとして有名である。微に入り細に入り相当のこだわりが感じられる。本人もかなり熱を入れて演出したのではないだろうか。
尚、本作は氏が監督を務めたTVムービー「メイド・イン・L.A.」(1989米)がベースになっているということだ。自分は残念ながらこのTVムービーを見ていないのだが、監督自身、かなりこのストーリーに思い入れがあるのだろう。
言ってしまえば、刑事とヤクザの愛憎ドラマなのだが、確かにベタと言えばベタである。日本の東映実録物あたりにあってもおかしくない話だ。例えば、
「県警対組織暴力」(1975日)は正にそういった内容の映画だった。
しかし、シンプルゆえにテーマは力強く発せられており、二人が如何に相手を憎しみリスペクトしていたかということがよく分かるようになっている。
2人の決着を描くラストも実にケレンに満ちていて痺れさせられた。まるで古きアメリカン・ニュー・シネマの再現と言わんばかりな男泣き必至なシーンとなっている。組織、社会からはみ出したアウトサイダーの生き様が神々しくも哀愁タップリに描かれている。
マンの演出は銃撃戦に対するこだわりはもちろんのこと、前半の強盗シーンにおける張りつめた緊張感の創出、暗視カメラの使い方等が非常に上手かった。
考えてみれば、この映画はマッコリーとヴィンセントの距離の描き方が実に巧みに計算されている。この暗視カメラや、波止場のシーンにおける望遠鏡。こうしたアイテムを使いながら二人の実距離を徐々に詰めていき、後半の深夜のダイナーで一気に直接対峙というお膳立てを用意している。
ここで二人は、刑事と強盗犯という敵同士でありながら、初めて互いの人間性を知り、互いの本音を知り、ある種社会、組織からはみ出したアウトサイダーとしての”共感”を芽生えさせていく。それはかすかな友情と言っても良いかもしれない。あるいはライバルと言ってもいいかもしれない。いずれにせよ、それまで互いにモニター越し、レンズ越しにしか見ていなかった男たちが、初めて直に顔を合わせて距離を縮めていくのだ。
こうした二人の距離感が、物理的な意味でも、感情的な意味でも、この映画はよく考えられている。脚本の構成がしっかりしている。
ただ、本作は約3時間というかなりの長丁場である。果たして刑事と犯罪者の愛憎というテーマを描くのに、これだけの長尺が必要か?と言われると、確かに微妙な気もする。本来であれば、シナリオをもっとスリムにして2時間程度に収めることも出来ただろう。さすがに3時間は長すぎるという気がした。
ここまで長くなってしまった原因は、ひとえにサブストーリーを詰め込み過ぎたせいである。
具体的には、マッコリーの舎弟であるクリス夫妻のドラマ。これが本筋とは余り関係がない所で繰り広げられている。2人の夫婦愛自体はかなり浪花節的で個人的には面白く観れたのだが、作品をトータルで見た場合、もっと軽い扱いでも良かっただろう。
もう一人の強盗仲間チェリトのドラマも描かれているが、こちらはサラリとしか描かれていない。描くとすれば、おそらくこのくらいが丁度良かったのかもしれない。クリス夫妻のドラマは全体のストーリーを散漫にしてしまっている印象を持った。
それとは逆に、マッコリーとイーディのロマンスについては少々物足りなく感じた。ここはもっと深く掘り下げて描いても良かっかもしれない。
それと、演出的な観点から一つだけ。例の市街地での銃撃戦で、マッコリーたちは誰も乗っていないパトカーに発砲しているように見えた。威嚇のための発砲だったのだろうか?しかし、窮地に追い込まれているあの状況ではそんな余裕はなかったはずである。だとしたら、パニックになって手当たり次第に撃っていたのかもしれない。この辺りはもっとハッキリとした演出をしてほしかった。観ててどうしても引っかかってしまった。