罠にはめられた男の復讐劇。刑務所内のシーンが良い。
「イノセントマン/仕組まれた罠」(1989米)
ジャンルサスペンス
(あらすじ) 航空機の整備士レイウッドは、麻薬捜査官の誤認捜査に巻き込まれて重傷を負ったばかりか、理不尽な裁判によって刑務所に入れられてしまう。孤立する彼は黒人グループのリーダーから目を付けられ嫌がらせを受けるようになる。ある日、レイウッドは古参の白人囚人バージルから”ある話”を持ち掛けられる。
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(レビュー) 無実の罪で服役した平凡な男の復讐を軽快に綴ったサスペンス作品。
序盤の裁判の展開がやや退屈するが、刑務所を舞台とした中盤以降は面白く観れる。なんでも本作の脚本家は実際に服役したことがあるらしく、そのあたりの経験が大分活かされているのであろう。
ストーリーは存外シンプルでこれと言った意外性はない。ただ、監督のP・イェーツの小気味いい演出、レイウッドを演じたT・セレックの好演が光っている。
更に、本作には強烈な個性派俳優が二人登場し、こちらも印象に残った。
まず1人目は、悪徳刑事を演じたD・ラッシュである。
テレビシリーズ「俺がハマーだ!」(1986米)の破天荒な刑事役で一躍人気に火が付いた彼が、ここでは冷酷非情な麻薬捜査官を演じている。麻薬の取引現場に踏み込んでは証拠品をくすね、それをマフィアに上納するという、職権乱用どころか悪に加担する最悪な刑事である。しかも、警察署内の検挙率はナンバーワンなので上司でさえ彼には逆らえない。今回、レイウッドはそんな彼に罪を着せられて服役することとなった。D・ラッシュは「俺がハマーだ!」では軽妙な演技で視聴者を楽しませていたが、ここでは全くの正反対。実に憎々しく怪演している。
尚、当然最後はレイウッドが彼に復讐を果たす‥という展開になるのだが、その復讐劇の裏にはもう一つのドラマがあり、こちらも中々見応えがあった。
レイウッドは刑務所に入ると古参の囚人バージルと出会い、かすかな友情で結ばれていく。実は、バージルとD・ラッシュ演じる悪徳刑事との間には過去に深い因縁があった。そのこともありバージルはレイウッドの復讐劇に協力するようになる。
バージルを演じるのはオスカー俳優F・マーレイ・エイブラハム、本作で印象に残った二人目の個性派俳優は彼である。
特に、ラストで見せる”表情”には何とも言えないカタルシスがある。今回のドラマはレイウッドの復讐であると同時にバージルの復讐でもあった‥ということが分かり深い余韻をもたらす。
エイブラハムと言えば、何と言っても「アマデウス」(1984米)のサリエリ役が代表作だろう。しかし、彼はそれ以外にもこうした小品にも度々出演している。出演作はかなり多く、そのほとんどが助演である。このフィルモグラフィーから分かることは、彼は多方面から必要とされている名バイプレイヤーということだ。
やはりオスカー俳優の名は伊達ではない。今回の演技も抜群の安定感があり、キャラクターの厚みを上手く引き出していると思った。刑務所内のドラマにリアリティが感じられるのは、先述した服役経験のある脚本家の力によるところもあるだろうが、もう一つはエイブラハムの好演によるところも大きいと思う。