ヴィジランテ物の新たな傑作!

「狼の死刑宣告」(2007米)
ジャンルアクション
(あらすじ) 投資会社に勤めるごく普通の男ニックは、ある日、愛する息子を目の前でギャングたちに殺される。その場で犯人グループの一人は捕まるものの、裁判では納得できる刑罰を科することができなかった。不満を募らせたニックは自らの手で仇を打とうとするのだが‥。
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(レビュー) 家族を殺された男の壮絶な復讐を過激なバイオレンスシーンに乗せて描いたアクション作品。
原作はC・ブロンソン主演の
「狼よさらば」(1974米)のブライアン・ガーフィールド。「狼よさらば」は大ヒットを飛ばし、以後シリーズ化されブロンソンの当たり役となった。「狼よさらば」は自警団物、いわゆるヴィジランテ物の走りと言われており、本作はその系譜に入る作品となっている。
とはいえ、本作のテーマは「狼よさらば」とは似て非なる物であり、どちらかと言うと復讐の虚しさを訴えかけた作りになっている。
例えば、本作の主人公ニックは「狼よさらば」のC・ブロンソンのように復讐を冷酷に成し遂げていくが、社会の寵児に祭り上げられるようなことにはならない。これは明らかに時代の”差”だろう。
現代は単純に善悪を判別できない時代だと言われている。単純に悪を制裁して称賛されるというのは、昔ならいざ知らず、現代においてはリアリティはない。これは原作通りなのか、それとも脚色なのか分からないが、少なくとも現代社会をリアルに投影した結果のように思う。
ラストについてもそうである。単純に悪者を倒してハッピーエンドというような勧善懲悪なドラマにはなっていない。
物語は至極シンプルである。愛する長男を殺された男が、殺したギャング団に単身、戦いを挑んでいくと言うもので、ストレートな語り口、軽快なテンポが見てて飽きさせない。
また、本作はギャング団の方にもかすかにドラマが配されていて、これが作品のテーマである復讐の虚しさを強く押し出している。殺した相手にもそれなりの事情があるということが分かり、これが先述した善悪の単純な差別化が出来ないという所に繋がっている。中々骨のあるドラマだと思った。
監督は「ソウ」シリーズの生みの親ジェームズ・ワン。「ソウ」(2004米豪)は切れのある映像演出と斬新なアイディアが話題を呼んだスリラーで、その後シリーズ化もされ人気を博した。その頃から思っていたが、彼は非常に卓越した演出センスを持っていて、今回の作品にもそれはよく出ていると思った。
特に、中盤の立体駐車場のアクションシーンは、一体どうやって撮影したのか分からないような斬新なカメラワークでグイグイと引き付けられた。
また、クライマックスの指や足が吹き飛ぶ過激な銃撃戦には「タクシードライバー」(1976米)感が漂う。その手前、戦いへ向かうニックがバリカンで自ら髪の毛を刈るというのも「タクシードライバー」を連想させる。おそらく、このあたりはワン監督は相当「タクシードライバー」を意識して演出しているに違いない。
先述したように本作はラストも印象深い。クライマックスのハードなアクションの余韻が冷めやらぬ中、こうしたメロウな演出を持ってくるあたり、中々心憎い。
尚、自分はここでクライマックスのギャング団のセリフが反芻された。
「お前も俺たちとかわらねえな」
これも善悪を単純に割り切れない現代社会の複雑さをよく表したセリフで胸にズシンときた。この一言だけで本作は随分と奥の深いドラマになったような気がする。
確かに色々と突っ込み所は多い。このラストにしても冷静に考えればかなり強引であるし、あれだけ深い傷を負いながら車で自宅まで戻るのは流石に無理があるのではないか?と思った。
あるいは、例の立体駐車場のシーンで、派手に銃を撃っているのにすぐ近くにいたギャングの追手が気付かないのもおかしい。
更に言えば、ギャングのボスはどうしてニックの急所を外したのか?ボスの父親はどうして銃を買いに来たニックをその場で殺さなかったのか?そもそもの話をすると、いたって平凡な男であるニックがクライマックスで派手に銃撃戦を繰り広げるのはムリすぎる展開である。
ただ、こうした様々な突っ込み所はあれど、作品全体に流れる復讐の虚しさというテーマ。そして、家族を殺された主人公の思いがひしひしと伝わってくるあたりは、やはりよく出来ていて、欠点を補って余りある快作になっている。
キャストではニックを演じたK・ベーコンの熱演が光っていた。孤独な心の内を渋く演じている。ファンなら必見であろう。彼の代表作になるかもしれない。