天才少年の冒険の旅をハートフルに描いた作品。

「天才スピヴェット」(2013仏カナダ)
ジャンル人間ドラマ・ジャンルコメディ
(あらすじ) 10歳の天才少年T・S・スピヴェットは、モンタナの田舎で広大な牧場を営む父と、昆虫博士の母、アイドル女優を夢みる姉、そして二卵性双生児の弟レイトンと暮していた。ある日、スピヴェットは目の前でレイトンを不慮の事故で亡くしてしまう。以来、家族は悲嘆に暮れ、スピヴェットは自分を責めるようになった。そんな時、スミソニアン博物館からスピヴェットの発明が栄えあるベアード賞を受賞したという知らせが届く。一度は授賞式への招待を辞退するスピヴェットだったが…。
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(レビュー) 天才少年の冒険の旅を美しい映像と奇想天外なキャラクターたちとの交流を交えて綴ったヒューマン・コメディ。
異色冒険小説『T・S・スピヴェット君 傑作集』をフランスの鬼才ジャン=ピエール・ジュネ監督が映像化した作品である。
ジュネ監督と言えば、「デリカテッセン」(1991仏)や「アメリ」(2001仏)、
「ミックマック」(2009仏)等、かなり毒気の強い映像派作家として知られている。しかし、今回の作品はその毒がかなり薄められており、誰が見ても楽しめる娯楽作品になっているように思う。
確かにレイトンの事故死という暗いイメージが付きまとうドラマではあるが、底意地の悪いブッラク・ジョークは皆無で、ラストはハートウォーミングに締めくくられている。これは原作がそうなのか(未読)、それともアメリカ特有のカラっとした空気感みたいなものがそうさせているのか分からない。いずれにしても、これまでのジュネ作品よりも随分と取っつきやすい作品となっている。
ストーリーは綺麗に三幕構成にきっちりと分けられている。
レイトンを亡くしたことをずっと気に病んでいたスピヴェットの元に1本の電話がかかってくる。それは彼の研究がスミソニアン博物館の賞を受賞したという知らせ。その授賞式に出席するために家族に黙って一人で旅に出る‥というのが一幕目である。
その後、その旅で様々な人と出会いながら、自己を見つめ直していく。これが二幕目。
そして、授賞式を終えて家族の元に帰ってくるというのが三幕目となる。もちろんラストはレイトンの死の呪縛から解き放たれるというオチになる。この三幕目が少し回りくどいという気がしなくもないが(受賞後のゴタゴタ)、物語は簡潔明瞭、特に奇をてらうことなくキッチリと構成されているのでとても見やすい。
スピヴェットが旅の途中で出会うユニークなサブキャラも面白い。そもそもスピヴェットの家族も皆一筋縄ではいかない曲者揃いで、このあたりは如何にもジュネ印である。
演出も実に軽妙で飽きさせない。スピヴェットの心象を模したであろうイメージカットが入ったり、姉の脳内を会議風景で表現したり、図解や数字が画面にアクセントをつけたり、様々なオブジェをユーモラスに配したり、至る所でジュネ監督の遊び心が満喫できる。
またアメリカ北西部の美景が時折挿入されるのだが、こうした映像の美しさも特筆すべきものがある。特に、ポイント的にカラーコーディネートされた夜景は絶品だった。
こうした全編に貫かれる色彩の豊饒さは同監督の「アメリ」を彷彿とさせる。「アメリ」はハイセンスな映像が話題となり日本で大ヒットを飛ばしミニシアター・ブームの興隆の一端を担ったが、本作はその少年版という言い方が出来るかもしれない。両作品を見比べてみると中々面白いのではないだろうか。