めくるめく複雑怪奇な恋愛模様。
「PASSION」(2008日)
ジャンルロマンス
(あらすじ) カホ、トモヤ、ケンイチロウ、タケシ、タカコは共通の友人同士で久しぶりに皆で集まることになった。そこでカホとトモヤが結婚することを報告する。しかし、ケンイチロウはカホと過去に付き合っていたことがあり素直に喜べなかった。その後、男たちはケンイチロウが現在交際中のタカコの家で飲み直すことになる。
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(レビュー) 複雑に絡み合った男女の恋模様を息詰まる会話劇で綴ったシリアスな恋愛談。
会話主体の映画なので映像的には今一つ地味目な作品であるが、激しいセリフの応酬や巧みな編集によって最後まで面白く観ることが出来た。
また、確かに地味な作品ではあるのだが、時折見せる”映画的”な図像演出が光っており、緩急の妙技とでも言おうか‥。全体的にメリハリがよく効いている。
特に、終盤の展開は白眉である。少々退屈なドラマだな‥と高をくくっていると足元を掬われてしまうかもしれない。実に侮れない作品である。
監督・脚本は
「ハッピーアワー」(2015日)、
「親密さ」(2012日)等で、男女のすれ違いを繊細に描き出した俊英、濱口竜介。本作は彼の長編デビュー作である。すでにリアリティを追求した描写に氏の資質が伺える。本作に後の作品の原形を見ることが出来るのが興味深い。
例えば、序盤の食事会のシーン。夫々の関係性を徐々に明るみにしていく会話劇は、「ハッピーアワー」の前半で見せた食事会のシーンの原形に思えた。
あるいは、終盤のカホとケンイチロウの朝焼けの散歩シーン。ここは「親密さ」における、夜半から朝方にかけての散歩シーンを彷彿とさせるロングテイクである。移動カメラか定点カメラかの違い。縦なのか横なのかという画面構図の違いはあれ、ここは映像的にもダイナミックでカタルシスも十分である。背景の煙突と白煙がどこか寂しく映り、くすぶり続ける彼らの関係性を実にクールに切り取っている。
また、タカコの部屋で繰り広げられる”質問ゲーム”のシーンも興味深く観れた。トモヤとタケシを含めた3人で、互いに順番に質問をしていくのだが、相手に知られたくない過去や本音を突かれて答えに窮したり、相手の告白を勝手に都合の良いように解釈して責め立てたり、喧々諤々の大論争となる。実に”えげつないゲーム”で、自分だったらこの場所にはいたくない‥と思うほどだった。
ただ、相手の本音を知りたい。相手を打ち負かして自分の優位性を誇示したい。そう思うのは人間の本性とも言える。ここはその人間の本性をよく表しているシーンで、だからこそスリリングで目が離せなかった。いつも思うのだが、濱口監督の人間を見る”目”はどこか意地悪で嫌らしい。
それにしても、過去の腐れ縁を延々と引きづりながら、狭い人間関係の中でウジウジとしている彼らを見ていると本当に滑稽である。
例えば、カホとトモヤは婚約しても尚、過去の恋人を忘れられず周囲に火種をまき散らしているし、ケンイチロウとタカコもたった一度きりの関係から抜けだせず互いに憎しみ合っている。普通であれば終わってしまった関係など断ち切って、さっさと別の場所で新しい恋を見つければいいものを、彼らはそれが出来ない。
人間は何と弱く自分勝手な生き物だろう‥。この映画を見るとそのことがよく分かる。
濱口作品は長大な作品が多い。それらに比べると本作は2時間弱と短めで比較的見やすい作品となっている。もし、彼の作り出す世界観を知りたいというのであれば、まずはこの監督デビュー作から入るのがベストだろう。めくるめく複雑怪奇な男女の恋愛模様に引き込まれると思う。