傑作の舞台裏は相当大変だった。

「デンジャラス・デイズ/メイキング・オブ・ブレードランナー」(2007米)
ジャンルドキュメンタリー・ジャンルSF
(あらすじ) SF映画の傑作「ブレードランナー」(1982米香港)についてのドキュメンタリー。
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(レビュー) R・スコット監督を初め、主演のH・フォード、圧倒的世界観をデザインしたS・ミードなど、名だたる映画人たちが語るドキュメンタリー。映画を知っている人ならば何倍も楽しめる内容となっている。まずは本編を見てからこちらを見ることをお勧めする。
言わずと知れた映画史に残る傑作「ブレードランナー」だが、製作に当たっては様々なトラブルに見舞われたことでも有名である。一番困難を要したのは予算の問題で、これについては本作でも詳しく述べられている。
まだCGの無かった時代、美術背景はすべてリアルなセットを作るしかなかった。スコットは細部にこだわり、自らの世界観をとことん追求する作家である。そのせいで時間も予算も大幅にオーバーし、製作サイドとの連携は崩れてしまう。しかし、それでも妥協を許さなかったスコットはやはり凄い監督である。
結果的に「ブレードランナー」が後のSF映画に大きな影響を与えたことは今更語るまでもないだろう。2019年の荒廃した近未来のビジュアルは、数々のSF映画、アニメ、マンガのモティーフとなった。
更に、本作には興味深いトリビアネタがいくつか出てくる。
最も印象に残ったのは、映画のラストについてである。レプリカントを演じたR・ハウアー本人が語っているが、ラストの鳩とセリフは彼の意見から生まれたものであるということだ。ある意味で、「ブレードランナー」のテーマを最も象徴的に表したと言っても過言ではない、あのラストシーンがハウアーのアイディアだったとは驚きである。
また、イギリスからやって来たR・スコットと現場のスタッフとの険悪な関係についても詳しく語られている。確かにスコット監督は芸術的思考の強い監督である。自分の感性を前面に出す”こだわり”は、スタッフの労働時間を長引かせハリウッドの流儀には全く合わない。撮影スタッフが抗議のTシャツを着たという逸話が面白かった。どこまでが冗談で、どこまでが本気なのか?ハリウッド流のジョークなのかもしれない。
この他には、元々の映画は4時間もあったこと、最初の脚本では密室劇に近い形式だったこと、スコットは「砂の惑星」を蹴って「ブレードランナー」の監督を引き受けたこと、俳優のストライキのおかげでプリプロダクションをじっくり煮詰めることが出来たこと等々、色々と知れた。
「ブレードランナー」のファンならこうした裏話が聞けるので必見作だと思う。
尚、タイトルの「デンジャラス・デイズ」は「ブレードランナー」になる前の仮タイトルだったらしい。今となってはやはり「ブレードランナー」以外に考えられないが、もしそのまま通っていたらどうなっていただろう?J・キャメロンが製作・脚本、離婚直後の元妻だったK・ビグローが監督を務めた「ストレンジ・デイズ/1999年12月31日」(1995米)と少し被ってしまい何だか今一つパッとしない気がする。荒廃した近未来都市という舞台設定もよく似ている。