ホドロフスキーのセンスが炸裂した自叙伝第2章!
「エンドレス・ポエトリー」(2016仏チリ日)
ジャンル青春ドラマ
(あらすじ) 故郷を捨て首都サンティアゴに移住したホドロフスキー一家。青年アレハンドロは、抑圧的な父に反発して家を飛び出し、芸術家姉妹の家に転がり込むことになった。そこで自由な生き方を謳歌する若きアーティストたちと交流を重ね、自らも詩人として生きていく覚悟を固めていく。そんなある日、ステラという女性と出会い恋に落ちる。
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(レビュー) 鬼才A・ホドロフスキーの自伝的映画
「リアリティのダンス」(2013チリ仏)の続編。
少年期を描いた前作から数年後を舞台に、詩人として自立していくアレハンドロの姿が周囲の人間たちとの交流を踏まえて描かれた青春映画である。
前作を観てから本作を観た方がいいと思う。そうでないと父との確執が今一つ実感として伝わってこないからである。最終的にその父から独立するというドラマになっているので、そこはポイントとして予め掴んでおいた方がいいだろう。そうでないと感動は余り得られないかもしれない。
さて、前作から3年。再度自伝的要素の強い続編を完成させたことは驚きである。前作は長いブランクを経て約24年ぶりの新作だったわけで、その空白期間を思えば今回の3年ぶりの新作は奇跡に近い快挙(?)である。製作費の問題など色々と困難はあろう。しかし、ここにきてまるで水を得た魚のように新作を立て続けに発表していることは嬉しい限りである。
かくして完成した自伝映画の第2章だが、今回は青年期を対象にした、いわゆる恋と友情、自律といった青春談となっている。前作は後半から父の革命の戦いというドラマをフィーチャーした結果、ややドラマとしての力点が拡散してしまったが、今作はそういうことはない。アレハンドロの視点が最初から最後まで固定されており、非常にすっきりとしたドラマになっている。
やや通俗的すぎるきらいもあるが、そこはそれ。ホドロフスキーらしい奇抜な演出、奇妙奇天烈なキャラクターたちの共演が氏らしいシュールでマジックリアリズムな世界観を作り上げている。誰にも真似できない独特のセンスに今回も酔いしれた。
ホドロフスキー本人も前作同様、画面の中に度々登場してくる。物語のナビゲーターだったり、青年アレハンドロを指南する後見人だったり、その役回りは様々である。
来日時には気さくにファンと交流したり、映画のみならず様々なエンタメ活動をこなす才人だけに、画面に出ればそれだけで突き抜けた存在感を発揮するが、そのあたりも含めて自分は氏のことをとても”お茶目なおじさん”だと思っている。世紀のカルト作「エル・トポ」(1969メキシコ)を撮った伝説的映画監督を評して言うのもあれだが、巨匠らしくない所に好感を持てる。
したがって、画面に登場すると何だか愛おしくに思えてしまうのである。
ただ、そんな彼も1箇所だけ。ラストの父との別れのシーンだけは、非常に辛く真剣な表情で登場してくる。ここはとても感動的だった。
ホドロフスキーは、この場面で青年時代の自分自身に向かって、父に別れの抱擁を促す。それは、父を憎んできた過去の自分に対する悔恨から、あるいは今は亡き父に対する愛から出た言葉なのかもしれない。自分は、この別れの抱擁に込められた意味を考えてとても悲しくなってしまった。
人は年を取って初めて過ちに気付くものである。大抵は取り返しのつかないことに諦め、そして悔やむものである。あの時に優しくしていれば。あの時にちゃんと向き合っていれば‥。現実ではやり直しは出来ない。しかし、映画の中ではそれが出来るのだ。
ひょっとしたらホドロフスキーはこの映画で父との絆を再生したかったのではないだろうか…。このラストを見てそんな風に思った。そう考えると、前作で自分が読み取った「父性愛」というテーマもここで一層鮮明に反芻される。
尚、今回は撮影監督をC・ドイルが務めている。ドイルと言えば独特の映像感性で幻惑的、スタイリッシュな映像世界を構築するカメラマンである。過去にも様々な有名監督たちとコンビを組んで、その手腕を発揮してきた。しかし、本作に関して言えば、いつものドイルらしさよりも、ホドロフスキーの強烈な個性が勝っているという感じがした。
例えば、詩人が集うバーの無機質的な空間などはかなりシュールでホドロフスキーのセンスのように思う。また、本作で最も奇妙でゴージャスな終盤の祝祭シーン。赤の死神と黒の骸骨が入り乱れる群舞も、映像のコントラストは華やかで実に祝祭感に溢れた名シーンとなっている。これもいかにもホドロフスキーらしい映像センスだろう。
さて、映画は青年アレハンドロの出立という形で終わっている。もちろんホドロフスキーは続きを構想中だろうが、果たして次はいつになるのか?年も年なのでもうあまり無理は出来ないだろうが、ぜひ存命の内にこの大河ドラマを完成させてほしいものである。