ゴッホの死の真相を斬新な手法で綴ったアニメーション作品。
「ゴッホ 最期の手紙」(2017英ポーランド)
ジャンルアニメ・ジャンルサスペンス
(あらすじ) オランダ人画家フィンセント・ファン・ゴッホが自殺してから1年後。青年アルマンは郵便配達人の父ジョゼフから1通の手紙を託される。それは父の友人であるゴッホから弟テオに宛てられた最期の手紙だった。たびたび問題を起こして村の厄介者だと思っていた画家のことを大切に思う父の気持ちを知り、アルマンはテオを捜しにパリへと向かうのだが‥。
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(レビュー) 不遇の画家フィンセント・ファン・ゴッホの死の真相を、一人の青年の目を通して描いたアニメーション作品。
アニメーションとは言っても本作は全編動く油絵で表現された異色の作品である。映画冒頭に出てくるが、本作のために集まった画家は100人を超えるという。更に、資料を調べてみると使用された油絵の枚数は6万枚以上だという。実際の俳優を使って実写で撮影した後に、それを元に画家たちが油絵を描いたということだ。想像を絶するような作業だが、一体どれほどの時間と労力がかかったのだろうか。これは紛れもない労作である。
ただ、実際にアニメーションとして純粋に観た場合、動きがガタガタであるし、場面によって淡泊な画面だったり、全体的にはかなり”雑”である。1秒間に12枚使用したというのだから動画枚数としてはかなりのクオリティだが、観ている最中の印象としては、やはり油絵で動く映像を作るというのは難題だったのかもしれない‥。そんな風に思ってしまった。
とはいえ、この企画に挑戦した意気込みは大いに評価したいし、おそらく今後こうした映画製作は難しいだろう。一見の価値は確実にある作品だと思う。
しかも、描かれた油絵はゴッホのタッチに似せており、登場人物も氏が残した絵のモデルにわざわざ似せている。このテーマを描くのにわざわざ油絵のアニメーションという手法を用いた理由は正にここである。実写ではこの味わいは絶対に出せないだろう。
物語は、ゴッホの死を青年アルマンが探っていくミステリーになっている。ゴッホに所縁のある人々を訪ねながら死の真相を究明していく過程は、丁度ゴッホという人物の数奇な人生を辿る作業に似てる。
自分は過去にK・ダグラスが主演した「炎の人ゴッホ」(1956米)を観たことがある。自らの片耳を切り落とした有名な逸話を題材にした今作は、ダグラスの熱演が素晴らしかったが、映画の中では彼がその後どうして自殺したのかという所までは深く描かれていなかった。したがって、自分はその後の話という感じで今回のドラマを実に興味深く観ることが出来た。「炎の人ゴッホ」を観た上で本作を観ると丁度良いかもしれない。
ストーリーは存外シンプルで誰が観ても楽しめるように作られている。ただ、鬼才の死を巡るミステリーとしては少々スケールが小さいし、ストーリーの視座となるアルマン自信のドラマも一応は用意されているがあくまでサブ的な扱いで食い足りない。
このあたりは、絵画のようなアニメーションという実験的映像、もっと言えばいわゆる3D型アトラクション映画に通じるような”映像の主張”を優先させた結果なのだと思う。基本的には目で見て楽しむアート作品という趣向が強い。
尚、元となった実写映像のキャストの中にはシアーシャ・ローナンの名前がクレジットされていた。
「つぐない」(2007英)でデビューした少女も今ではすっかり大人のレディに成長していて驚かされた。