大人になれないダメ女の成長物語。後味爽やかで◎

「フランシス・ハ」(2012米)
ジャンル人間ドラマ・ジャンルコメディ
(あらすじ) ニューヨークの劇団で見習いダンサーをしている27歳のフランシスは、親友のソフィーとルームシェアをしながら楽しい日々を送っていた。ある日、ソフィーが部屋を出ていくことになる。折しもフランシスは彼氏の同棲を断ったばかりだった。住む所を失った彼女は、ソフィーに紹介されたレヴとベンジーの部屋に同居することになる。その後、劇団から解雇を言い渡されたフランシスは新しい仕事を探さなければならなくなり‥。
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(レビュー) 大人になりきれないアラサー女子の日常をユーモアを交えて描いた人間ドラマ。
全編モノクロで撮られた小品で、画面全体に独特の郷愁感が漂うのが面白い。音楽の使い方にしてもそうだが、まるで昔の洒落たフランス映画を観ているような感覚に捉われた。ニューヨークを舞台にしたアメリカ映画なのに、こうした印象を受ける映画は自分は今まで見たことが無かった。そういう意味では、実に新鮮だった。
物語は実にシンプルで、ヒロイン、フランシスの自律のドラマとなっている。
彼女は学生時代の親友ソフィーと同居しているが、ソフィーは自分の夢を追いかけて一足先に独立してしまう。一方のフランシスは恋人に振られダンサーになる夢も絶たれ途方に暮れることになる。金なし、職なし、彼氏なしの絵に描いたようなイケてない女性である。
27歳といえば、いっぱしの大人である。社会に出て仕事をバリバリこなし、プライベートでは大人の恋を楽しみ、人生の中でも一番華やいだ充実したひと時を送っていてもおかしくないはずである。しかし、現実とはそんなに甘いものではない。フランシスは正に弱り目に祟り目といった感じで、どん底の暮らしを送る羽目になってしまう。
ただ、どうして彼女がこんな大人になってしまったのか‥ということについては、映画を観ていれば何となく分かってくる。要するに、彼女が幸せな人生を送れていないのには彼女自身にも原因があるのだ。
はっきり言うと、フランシスは未だに10代と変わらない未成熟な女性である。
一番印象的だったのは、劇団仲間の夕食会に招かれた時の一場面。フランシスは、理想の結婚は?と問われてこう答える。「私はパーティーで運命の人と出会って結婚するのが理想よ」。これは決して笑いを取ろうとして言っているわけではない。彼女は大真面目にこう答えるのだ。
10代ならまだしも、27歳にもなって白馬に乗った王子様との出会いを公言するあたり。さすがに周囲もこれにはドン引きしてしまう。このシーン一つとっても見ても、自分はフランシスの中に精神的な幼さを見てしまう。
また、フランシスは根本的に依存体質のような気がした。学生時代からの親友ソフィーと同居し、それが破綻すると今度はレヴとベンジーの部屋に。それも破綻すると次は劇団員の部屋でルームシェアすることになる。経済的な理由もあろうが、フランシスは必ず誰かと同居しているのである。まず、このライフスタイルからして、彼女を独立できない女性にしているような気がした。
そんなわけで、フランシスは非常に残念な女性で、終始居たたまれない気持ちで映画を観るしかなかった。
ただ、映画のラストは、そんな彼女に救いの光を見せて終わる。ここは本作の白眉だと思う。
映画のタイトル「フランシス・ハ」というのは実に奇妙なタイトルであるが、これは彼女の名前を途中で区切ったものである。この”中途半端さ”は、フランシスの未成熟さをそのまま意味しているのだろう。実は、このタイトルが映画のラストで味わいのあるオチをつけている。実に良いエンディングで、これには膝を打ってしまった。
ラストが締まる映画というのは見てて実に気持ちが良いものである。今作は正にそうしたタイプの作品であり、観てる最中は悶々とするが、このラストでかなり気持ちが昂った。実に秀逸なエンディングである。
監督、共同脚本は「イカとクジラ」(2005米)で注目されたノア・バームバック。「イカとクジラ」もそうだったが、イケてない人間のリアルなドラマを淡々と描写するのに長けた監督である。彼は自信で作品を撮るほかに、W・アンダーソン監督の作品で脚本を務めていたり、かなり幅広く映画製作に携わっている俊英である。今後も要注目である。
キャストでは、何と言ってもフランシスを演じたグレタ・ガーウィグに尽きると思う。大人になり切れない等身大の女性を上手く演じている。決して絶世の美女というわけではないが、そこがこのキャラクターにリアリティをもたらしている。彼女はバームバックと共に脚本も書いており、俳優としてだけでなくスタッフとしても本作に関わっている。彼女もやはり要注目の女優だろう。
また、昨今活躍が著しいA・ドライヴァーがレヴ役で出演している。次々と女性を部屋に連れ込むプレイボーイをスマートに演じている。
尚、本作は音楽も中々に良い。先述したように古いフランス映画のような趣があり、これがモノクロの画面とよくマッチしていた。
ちなみにBGMでデヴィッド・ボウイの「モダン・ラブ」がかかるのだが、この躍動感。どこかで見た覚えがあると思ったら、レオス・カラックスの「汚れた血」(1986仏)だった。どちらもよく似たシチュエーションでかかるので、もしかしたら監督のノア・バームバックは意識しているのかもしれない。