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スリー・ビルボード

巧みなストーリー運びに奇妙なテイストが合わさった秀作。
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「スリー・ビルボード」(2017米)star4.gif
ジャンルサスペンス
(あらすじ)
 アメリカのミズーリ州の田舎町。ある日、道路脇に立つ3枚の立て看板に、地元警察への抗議メッセージが掲げられた。それは娘を殺されたミルドレッド・ヘイズが、7ヵ月たっても一向に進展しない捜査に業を煮やして掲げたものだった。末期がんに侵されている署長のウィロビーはミルドレッドの憤りに対して真摯に対応する。一方で部下のディクソン巡査はミルドレッドへの怒りを露わにした。やがて署長を敬愛する町の人々もこの広告に憤慨しミルドレッドは徐々に孤立していくようになる。

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(レビュー)
 娘を失った母親が出した広告が町の人々の人生に様々な波紋を及ぼしていく様をユーモアとシリアスな描写を交えて描いたサスペンスドラマ。

 基本的には非常に隠滅としたドラマである。しかし、所々にユーモラスな演出があり、最後まで弛緩することなく興味深く観ることが出来た。どことなくコーエン兄弟の作風に似ているような気もした。

 監督・脚本のM・マクドナーの作品は今回が初見である。過去の作品を調べてみると主にコメディを撮ってきた監督らしい。その経歴を見ると、なるほどと思える。要所に覗かせる絶妙な悲喜劇のコントラストは、この監督がもともと持っていた作家性なのだろう。中々面白いテイストだと思った。

 物語は、ミルドレッドの警察への抗議を描く、いわゆるハードボイルドなサスペンス・ドラマとなっている。
 このミルドレッド、傍から見れば非常に困ったおばさんで、やり玉に挙げられた署長が捜査の困難さを冷静に話そうとしてもジョークではぐらかしたり、診察に行った歯医者から非難されると彼の指を××したり、普通では考えられないような行動をする人物である。確かにお役人にありがちな警察の体たらくな姿勢は目にあまる物があるが、そこまでするか?という暴走が彼女に対する感情移入を拒むような所がある。逆に、愛する家族やダメダメな部下たち、町の人々から熱い信頼を集めるウィロビー署長の方が気の毒に思えてしまった。

 ただ、この映画は誰が悪くて誰が良いのか?そうした一律的な解釈で観ていくべき作品ではないように思う。見る角度を変えることによって善は悪になり、悪は善にもなるという深読みをさせるような、敢えて”余白”を持たせた映画になっている。全てを説明しない所が良い。観客に、ミルドレッドやウィロビー署長、そして彼の部下であるディクソンの行動の正否を考えさせるのだ。

 例えば、娘を無残に殺されたミルドッレッドの已むに已まれぬ感情を推し量れば彼女の行動には一定の理が出てくる。
 逆にウィロビー署長の最後の”選択”は周囲を混乱させるだけで何の解決にもなっていない。一種の”逃げ”とも取れる行動であり批判されてしかるべきであろう。
 本作はこうした人物の行動に対する正否を常に観客の裁量に問いかけながら進行していく。善と悪は見方によって簡単に反転するという所が面白い。

 本作で、その善悪が最も明確に示唆されているのはディクソン巡査であろう。
 彼は最初はミルドレッドを憎んでいるが、あることをきっかけに改心して彼女のために殺人事件の捜査に邁進することになる。この変化が本ドラマのクライマックスである。

 演じるS・ロックウェルの熱演も相まって、図らずもその”勇気ある行動”には泣かされてしまった。これも善悪の反転である。彼自身が今までの自分の行動を戒めることで”善”へと転じたのである。

 更に、この善悪の葛藤はラストまで続く。観る人によっては煮え切らないラストかもしれないが、これこそがこの映画のテーマのように思う。結局、人間は永遠に自分の行動が善か悪か迷いながら生き続けるのだ‥と言われているような気がした。

 キャストでは、何と言っても先に挙げたS・ロックウェルの好演を評価したい。彼は今作でアカデミー賞の助演男優賞にノミネートされている。役柄的に言っても十分オスカーを狙える有利さがあるように思う。「トラフィック」(2000米)におけるベニチオ・デル・トロ的な美味しい役所であった。

 また、ミルドレッド役のF・マクドーマンドも絶妙な演技を見せている。学校でイジメられる息子に見せる母親としての顔。怒りに駆られて暴挙に出る時の”強き”顔。そして自分の行動が他者を傷つけていることを知って自省する時の”弱き”顔。複雑な心理を見事に演じて見せている。こちらもオスカー受賞は十分にありそうだ。
[ 2018/02/08 00:50 ] ジャンルサスペンス | TB(0) | CM(0)

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