アクの強い個性派俳優の激突を期待させるが…

「ミズーリ・ブレイク」(1976米)
ジャンルアクション
(あらすじ) モンタナ州のミズーリ川沿いの小村。トム率いる馬泥棒の一団に馬を盗まれた牧場主ブラクストンは、見せしめとして一味の一人を縛り首にした。怒ったトムは仕返しとばかりに牧童を同じように縛り首にした。これに対してブラクストンは賞金稼ぎのガンマン、クラントンを呼び寄せてトムたちを追いかけさせる。その一方で、トムはブラクストンの娘ジェーンと恋仲になっていき…。
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(レビュー) 馬泥棒の一団と牧場主に雇われたガンマンの戦いを描いた西部劇。
オープニング・タイトルのロングテイクからして中々引き込まれる作品だが、正直な所、中盤まで展開がもたつくのと、ストーリーが途中から二つに分散してしまうせいで余り楽しめなかった。
映画は、トムがブラクストンの娘ジェーンと禁断の愛を育んでいくドラマと、トムの手下たちがカナダに馬泥棒をしに行くドラマ。この二つで構成されている。そして、その合間合間にブラクストンが雇った賞金稼ぎクラントンがトムを追いかけていくドラマが挿話される。
はっきり言うと、カナダのクダリはそれほど重要ではないので省略してしまっても良いような気がした。ここはブラクストンとジェーンのロマンスを中心にしながら、2人の密会を影からスパイするクラントン‥という構図で見せた方がスッキリしただろう。
ただ、本作は後半に入って来るとトム対クラントンの戦いが俄然盛り上がってくるので、そこから徐々に面白くなっていく。
両者を演じた俳優陣の演技合戦も良い。トムを演じるのはJ・ニコルソン。クラントンを演じるのはM・ブランド。夫々にアクの強い個性派俳優だけあって、その衝突は中々魅せるものがあった。
特に、ブランドは登場シーンからして異様な風体をしていて強烈なインパクトを観る者に与える。馬の腹にぶら下がる奇抜な登場シーンも呆気にとられるし、トムに殺された牧童の死体を棺桶から出して周囲を怒らせるシーンも、一体何のためにそんなことをやったのかよく分からないが、ともかくもコイツは理不尽で突拍子もない行動をする男だ‥ということを強烈に印象付けている。
また、今回ブランドは様々なコスプレも披露しており、そこも中々楽しませてくれる。先の登場シーンではマリアッチ風な衣装。中盤でトムの仲間を手にかけるシーンでは似非牧師の衣装。終盤では老婆の変装をしてトムたちを追い詰めていく。劇中では洒落者として通っているが、良いか悪いかは別にして確かに先鋭的なセンスをしている。
一方のJ・ニコルソンも頑張っている。ただ、流石にこれだけブランドが目立ってしまうと押され気味である。ドラマ的には彼が主役なのだが、今回はブランドの方に完全に軍配が上がってしまった印象だ。
クライマックスは当然二人の対決となるのだが、これは少々意外だった。実にあっけない終わり方となっている。賛否あろうが、個人的には中々面白い”やり方”だと思った。
監督はA・ペン。「俺たちに明日はない」(1967米)で一躍アメリカン・ニュー・シネマの旗手となった名匠であるが、本作も只の西部劇とはなっていない。先述したクライマックス・シーンのあっけなさにしてもそうだが、かなり捻った演出を多用している。どこか虚無的で、正義不在の悪漢のドラマになっている。
また、所々にコミカルさを狙った演出も配されており、牧歌的な空気感も感じられた。この辺りの演出はやはりペンの一つの魅力であろう。
思えば「俺たちに明日はない」も、アウトローたちの刹那的な生き様を描いた残酷な映画だった。しかし、演出自体はどこか軽妙で、かのラストシーンなどはそのギャップに当時の人々には驚かされたものである。今回の作品にも同様のことが言える。見ようによってはチグハグさしか受けないかもしれないが、この独特のセンスこそA・ペンの”味”だろう。