普通のボクシング映画に非ず!クライマックスはとんでもない展開に…。

「鉄拳」(1990日)
ジャンルアクション
(あらすじ) 林業を営む誠次は家業を専務の筒井に任せて、もう一方で自身が所有するボクシングジムのオーナー業に夢中だった。ある日、筒井を通して少年院上がりの明夫という少年を紹介される。ボクサーとしての素質を見い出した誠次は、彼をチャンピオンに育てるべく特訓を始める。しかし、順調にいくかに思えた矢先、明夫は交通事故で負傷してしまう。
ランキング参加中です。よろしければポチッとお願いします!


(レビュー) 二人三脚で世界チャンピオンを目指した男たちの壮絶な戦いを激しいバイオレンスを交えて描いたアクション作品。
監督・脚本は阪本順治。前年に”浪速のロッキー”こと赤井英和の自伝を元にしたボクシング映画「どついたるねん」(1989日)を撮っているので、また同じジャンルかと思いきや、本作はいわゆる普通のボクシング映画にはなっていない。途中から全く違った方向にストーリーが展開され、クライマックスではとんでもない”戦い”が待ち受けている。この予期せぬ展開、怒涛のクライマックスは、例えるなら三池崇史監督のヤクザ映画「DEAD OR ALIVE 犯罪者」(1999日)を彷彿とさせる。正に呆気にとられること然りの”怪作”である。
尚、製作は荒戸源治郎が務めている。彼は鈴木清順の大正ロマン三部作「ツィゴイネルワイゼン」(1980日)、「陽炎座」(1981日)、「夢二」(19991日)のプロデューサーとしても有名であり、また「赤目四十八瀧心中未遂」(2003日)を撮り自らも監督業にも進出している著名な映画人である。今例に挙げた作品は、いずれも幻想的なタッチが横溢する怪作で、それを考えると本作の一筋縄でいかない作風も何となく理解できる。
さて、本作は中盤まではいたって普通のボクシング映画として進行する。しかし、いわゆるボクシングをテーマにしたドラマはここで終了し、途中から映画のジャンル自体がガラリと変わり、それまでとはまったく違った方向にドラマが転がり出していく。そして、最終的には、どうしてこうなった?的な”破天荒”な展開にもつれ込み、何だかんだあってハッピーエンドなのかどうかも分からない大団円を迎える。
映画を観始めて、まさかこんな結末に落ち着くとは誰も想像できまい。そういう意味では予測不能な映画ということが出来るのだが、しかし予測できないように作るのと、行き当たりばったりに作るのとでは全然違う。本作はどちらかと言うと後者のようにしか思えなかった。
具体的に言うと、学ランを着た謎の”制裁集団”が登場してから、ストーリーはおかしな方向に進んでいく。ここから一気に無国籍風SF映画的なトーンになっていき、少し「マッドマック2」(1981豪)の匂いも感じさせる。そして、どこかカンフー映画のようなアクション風味も増していく。
言葉だけで並べれば面白そうに聞こえるかもしれないが、実際に映画を観ていると中々脳ミソがこの展開についていけない。
正直、展開はかなり乱暴で、1本の映画として見た場合、まとまりに欠けると言わざるを得ない。
他にも、プロットが行き当たりばったりと思えるような箇所がある。明夫の特訓シーンをほとんど描かないままトントン拍子で王者戦に挑戦する過程などもかなり乱暴な展開だ。
更に言えば、件のクライマックスの戦いの最中で見せるギャグもかなりお寒い有様で、真面目に観ていたら失笑ものである。
ちなみに「DEAD~」はこのギャグの部分が三池監督特有の徹底したバカっぷりが冴えているせいで面白く観れるように作られている。同じ怪作でも、本作とはそこが大きく違う。
ただ、下手なジャンル映画をごった煮にしたような本作であるが、誠次役の菅原文太が中々味わい深い演技を見せているので、そこだけでも観る価値はあろう。過激なアクションシーンにも挑戦しているし、映画のタイトルである「鉄拳」を謎の”制裁集団”に食わしていくクライマックスは見てて痛快だった。
明夫役は元プロボクサーの大和武士が演じている。彼は映画公開時はまだ現役だったが、翌年に俳優業に転身した異色の経歴の持ち主である。しかしながら、肝心の演技は素人感丸出しでお世辞にも上手いとは言えない。阪本順治は前作「どついたるねん」でも元ボクサーである赤井英和を映画デビューさせているが、やはりそちらも演技は全然ダメだったので、こういうキャスティングが好きなのだろう。芝居よりもファイトシーンの説得力を重視したキャスティングのように思った。確かにファイトシーンに関しては迫力があり、その点では成功していると言えるかもしれない。