高畑勲氏が最後に関わった作品。偉大なアニメーション作家を追悼。

「レッドタートル ある島の物語」(2016日仏ベルギー)
ジャンルアニメ・ジャンルファンタジー
(あらすじ) 無人島にたった一人で漂着した男は、孤独を耐えながらサバイバルを始める。イカダをこしらえて脱出を試みるが何度作っても沖へ出た所で壊れてしまった。イカダを壊したのは赤色をしたウミガメだった。逆上した男はそのウミガメを殺してしまう。その後、そのウミガメは美しい女の姿になって彼の前に現れる。
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(レビュー) 美しい無人島を舞台にしたファタジーアニメ。
スタジオジブリがオランダのアニメーション作家マイケル・デュドク・ドゥ・ヴィッドを招いて製作した作品で、これまでの宮崎作品や高畑作品とは異なる独特なタッチの作品となっている。いつものジブリアニメだと思って見ると期待を裏切られるかもしれない。しかし、個人的にはこれまでに観たことがにような作風、美しく壮大な映像が新鮮で最後まで面白く見ることが出来た。
マイケル・デュドク・ドゥ・ヴィッドと言えば、アカデミー賞短編アニメーション賞に輝いた「岸辺のふたり」(2000英オランダ)という傑作が思い出される。わずか8分のシンプルな作品ながら、詩情あふれる映像と音楽がとても感動的な小品だった。今作はそんな彼の初の長編作となる。宮崎、高畑の名前を世界的なものとしたジブリの後ろ立てを受けたわけであるから、大した出世である。
映像のクオリティはこれまでのジブリ作品同様、実に美しくて素晴らしかった。特に、海底の神秘的な映像は特筆に値する。
そして、本作はロングショットの画額が異様に多い。主人公を含めた人物のアップはほとんどなく、ほぼ自然に埋もれた人間の姿が淡々と捉えられるのみである。見方によっては主人公に感情移入をさない作りとも言えるが、これが実にスクリーン映えするように設計されていて、いかにも”映画的”な映像作品になっていると思った。
今作は間違いなく映画館で観た方がいい作品だろう。残念ながら今回自分はテレビでの鑑賞だったが、できれば映画館で観ておきたかった…と悔やまれる。
「岸辺のふたり」もそうだったが、こうした画面設計はこの監督の得意とするところなのだと思う。人間の孤独感、生命の力強さを一層引き立てるべく、敢えてロングショットの連続で責めた所は実に大胆である。
一人ぼっちの過酷なサバイバルを繰り広げる前半。大きな天災によって生命の危機に晒される後半。全編、主人公の男の飽くなき生への渇望がひしひしと伝わってきて、画面から目が離せなかった。
また、本作は全編セリフがないのも大きな特徴である。これは作品の普遍性を狙ったものだろう。セリフに頼らない”語り”は、極めて原初的な映画表現法とも言える。
映画は後半から家族の物語になっていく。赤いウミガメの化身である女が男と結ばれて子供が生まれ、以降は3人のサバイバル劇となっていく。そして、その中で家族の絆、尊さが謳われていくようになる。これも実に普遍的で胸にしみじみと迫ってきた。
本作は、実に実験的な手法で描かれた作品である。確かに分かりやすい作品ではないし、子供が見ても楽しめるかというと疑問を禁じ得ないが、メッセージ自体は真摯で明快に発せられているように思った。
尚、抽象的な部分が幾つかあり、若干そこは解釈に迷った。
一つは、息子が見る夢のシーンである。静止した高波の上から息子が浜辺の両親に向って手を振るが、この夢は一体何を意味していたのだろうか?
また、後半の津波の意味とは何だったのか?もしかしたら先だっての東日本大震災が何か関係しているのかもしれないが、そのあたりの含みも合わせて津波の意味を考えてみたくなる。