もう一つの世界に迷い込んだ男の数奇なドラマ。

「ザ・ドア 交差する世界」(2009独)
ジャンルファンタジー・ジャンルサスペンス
(あらすじ) 不倫中に娘を事故で亡くした画家ダビッドは、酒に溺れて自堕落な人生を送っていた。ある夜、自殺を試みるが、そこで不思議な扉を発見する。その扉は娘がまだ生きていた過去へと繋がっていた。ダビッドは扉の向こう側へ渡り娘を救出することに成功する。しかし、そこにはその世界で生きるもう一人の自分がいた。とっさに彼を殺してしまったダビッドは証拠を隠滅して、その世界で普段通りの暮らしを始める。
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(レビュー) 現実とは違うもう一つの世界に入り込んでしまった男の数奇な運命をスリリングに描いたファンタジー・サスペンス。
中々凝った設定のドラマで興味深く観ることが出来た。
自分の不注意で愛する娘を亡くしたダビッドは、その過去をやり直そうともう一つの世界の扉を開ける。そして、失った人生を愛する家族と共に取り戻してくようになる。これはある種、並行世界を旅行するタイムトラベルのドラマと言っていいだろう。
本作の面白い所は、ダビッドがその世界に住む自分自身を殺して彼に成りすまして生活するという点である。いわゆる成りすましコメディのようなシュールでナンセンスな可笑しさが誘発し、こう言ってはなんだが、第三者的な目線で観ればダビッドの奔走劇はシリアスになればなるほど、どこか滑稽に見えてくる。
例えば、遺棄した死体を発見されないように工作する所などは、ヒッチコックの「ハリーの災難」(1955米)を想起させる。もちろん映画のトーンはいたってシリアスに整えられているので、決して笑わそうとして作っているわけではないのだが、しかし冷静に考えればこれほど意地悪なブラック・コメディは無いだろう。
こうしてダビッドはもう一つの世界の自分に成りすまして愛する妻子と幸せな暮らしを送るようになる。しかし、天網恢恢疎にして漏らさず。どんな悪事も白日に下に晒されるのが世の常である。ダビッドの正体を怪しんで詮索する人物が2人登場してくる。
1人目は彼が救った愛娘。もう一人は隣に住む中年男である。特に、この中年男がダビッドの邪魔になる。正体をばらすぞと脅され窮地に追い込まれてしまうのだ。
しかして、クライマックスでは意外な秘密が明らかにされ、更にダビッドは追い込まれるようになる。
かつて「ボディ・スナッチャー/恐怖の街」(1956米)という作品を観たことがあるが、アレに近い展開と言えばいいだろうか…。かのラストシーンはSF映画ファンの間では未だによく語られる伝説のシーンであるが、本作も衝撃度という点では決して負けてない。流石に強引過ぎて笑ってしまったが、このくらいハッタリが効いていると観てて気持ちが良い。納得いくかどうかは、観た人それぞれかもしれないが、少なくとも自分はエンタテインメントとしては十分に満足のいくクライマックスだった。
また、ラストも渋くまとめられていて中々良い。ダビッドにとってみれば実に皮肉的な結末と言わざるを得ないが、観る側に大切な教訓を提示している。やはり人間は過去をやり直すことなどできない。目の前の現実をしっかり見据えよ…と語り掛けているかのようである。
全体的に低予算な小品なのでチープな部分もある。しかし、娯楽性も豊富で、タイムトラベル物の亜流として観れば中々魅力的なアイディアが詰まった逸品ではないかと思う。
また、ダビッドを演じたM・ミケルセンの演技も渋いのでファンなら一見の価値があろう。