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偽りなき者

冤罪事件をシニカルに切り取った問題作。

「偽りなき者」(2012デンマーク)star4.gif
ジャンル人間ドラマ
(あらすじ)
 デンマークの小さな町で幼稚園の教師をしているルーカスは、離婚の悲しみを乗り越え、仲間たちと狩猟を楽しむ穏やかな日々を送っていた。そんなある日、彼にプレゼントを受け取ってもらえなかった園児クララが、軽い仕返しのつもりで発した言葉が周囲に波紋を起こす。ルーカスにいたずらされたと嘘をついたのだ。これを鵜呑みにした人々はルーカスを糾弾し始める。

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(レビュー)
 いわゆる冤罪事件について描いた作品で、大衆の盲信、偏見を皮肉的に描いて見せた所が実に残酷で、観終わった後には苦々しい気持ちにさせられるとともに、この話は現代社会にも通じる実に普遍的なドラマなのではないか…と思った。事件になるまでの経過に関して(特に糾弾する側の描写がカリカチュアしすぎていて)納得いかない部分もあったが、この映画が言っていることは中々鋭いと思った。
 かつて冤罪事件を題材にした映画で「それでもボクはやってない」(2007日)という傑作が日本にもあったが、それに通じる批判性が感じられた。

 本作はまず何と言ってもルーカスを演じたM・ミケルセンの演技が素晴らしい。言わば魔女狩りにおける犠牲者的な立場に追いやられていくのだが、その悲壮感溢れる演技は観てて実に痛ましく感情移入せずにいられなかった。
 そして、そんな孤独の淵で唯一の心の救いとなるのが、離れて暮らす息子マルクスである。過去に何があって離れ離れになってしまったのかは映画を観てもよく分からないが、マルクスの父に対する敬愛ぶりを見ていると、自ずとルーカスの善良な人間性がクローズアップされていく。このあたり脚本の上手さだろうと思うが、平凡でどこにでもいる気の優しい父親という側面が垣間見えて、益々彼のことを応援してしまいたくなった。

 一方で今回の事件の発端となった少女クララの無垢な演技も素晴らしかった。罪の意識なしについた嘘が周囲に混乱を巻き起こしてしまったことを、彼女はどう思っているのか?そのあたりの心理が今一つ掴めない所も含めて、その純真無垢さは実に残酷に映る。果たして彼女は大人になったらこの事件をどう思い起こすのだろうか?そう思うと少し気の毒にも思えてしまった。

 また、この映画はラストも良い。ルーカスの誤解は一応解かれるのだが、それでも一度ついてしまった偏見はそう容易く拭えない。そのことを暗に示すかのように不安感がこびりつくようなエンディングになっている。これがあることで、本作の鑑賞感はずっしりとした重みを増す。すんなりドラマを終わらせなかった結末が見事だ。

 確かに見てて延々と鬱積が溜まる作品であるが、偏見や嘘に振り回される人間の愚かさ、正義と罪を問うた骨太なメッセージに作り手側の強い意志が実感される。力作と言えよう。

 本作で唯一残念だったのは、ルーカスを糾弾する周辺人物の造形がやや淡泊に映ったことだろうか…。
 幼稚園の園長は典型的なフェミニストで、証拠もなしにルーカス糾弾の先鋒となっていくし、クララの両親も何も考えず彼女の言葉を鵜呑みにしてルーカスを敬遠してしまう。いくら可愛い娘を思ってのこととはいえ、ルーカスとは長年の親友である。ストーリー上、この両親の大人としての冷静な対処を1シーンでいいから追加してあげれば、このストーリーは更にリアリティを増したであろう。悪役は悪役という風にドラマを単純化しすぎてしまった感がある。
[ 2018/05/23 00:32 ] ジャンル人間ドラマ | TB(0) | CM(0)

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