摩訶不思議な感覚に心奪われるアニメーション作品。
「犬ヶ島」(2017米)
ジャンルアニメ・ジャンルアクション・ジャンルコメディ・ジャンルファンタジー
(あらすじ) 2038年の日本。ドッグ病が蔓延したメガ崎市では、小林市長がすべての犬を“犬ヶ島”に追放することを宣言した。犬ヶ島に隔離された犬たちは空腹を抱えながら辛い日々を送るようになる。そんなある日、一人の少年が小型飛行機で島に降り立った。彼は3年前に両親を事故で亡くし、親戚の小林市長に引き取られたアタリという少年だった。アタリは護衛犬のスポッツを救出するためにこの島にやって来たのだが…。
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(レビュー) 人間に隔離された犬たちと孤独な少年の冒険を独特の感性で描いたストップモーション・アニメ。
製作・監督・原案・脚本は
「グランド・ブタペスト・ホテル」(2013英独)のW・アンダーソン。
幾何学的な画面構図やカリマチュアされたキャラクター、オフビートなユーモア等、氏の作家性が存分に発揮された作品となっている。他では見られない独特の感性に魅了される。
また、本作は未来の日本が舞台となっている。このあたりも同じ日本人としては大変興味深く観れた。考証をまったく無視した、ある種見世物に徹した造形の数々は、純然たるSFとは違って、もはやファンタジーのように楽しめる。
とはいえ、「小林市長」=「強大な権力」が市民の批判の声を封じこめるという図式には、現代のアメリカ、あるいは日本社会に対する警鐘も読み取れる。リアルに描けばひたすらダークになるだろうが、そこをカリカチュアされたアニメーションの世界観で表現した所が本作の妙味で、それによって作品の口当たりは随分とマイルドになっている。
鋭い社会批判を忍ばせつつも、クスクスと笑いながら観れる娯楽作品として、中々よく出来ていると思った。
実際に”映像作品”として観れば、これほど楽しめる作品もそうそうないだろう。
未来とは言っても、どこかノスタルジックな味わいを漂わせた風景。富士山と東京タワー、神社と工場が一つの画面に同居するシュールな図像。相撲や歌舞伎といった日本古来の伝統文化に対するリスペクトを感じさせつつも、コミカルさを大胆に加味した演出。メガ崎市の描景は、もはや”カオス”と称する以外に言葉がみつからない。
一方、煌びやかなメガ崎市に比べて、犬ヶ島の寂寥感漂う風景もまた刺激的である。見わたすかぎりゴミだらけの乾いた大地、すっかり錆びれてしまった廃工場、かつての賑わいが見る影もないほどにボロボロになってしまったリゾート施設。メガ崎市と犬ヶ島の対照的な風景は、まるで現代の格差社会を暗喩しているかのようである。
アニメーションとしてみた場合も中々味わい深い。スタジオライカが製作した
「KUBO/クボ 二本の弦の秘密」(2017米)のようなCGと見紛うハイクオリティなアニメではなく、いかにも手作り感あふれるぎこちない動きのアニメーションには温かみが感じられた。
このように映像に関しては文句なしに楽しめる一級のエンターテインメント作品となっている。
ただ、一方のストーリーはというと、こちらは若干乗れなかった。キャラクター造形や映像がぶっ飛んでいる割に、小さくまとまり過ぎて予定調和の域を出ていない。
物語は、犬ヶ島を舞台にしたアタリの冒険談と、メガ崎市を舞台にした反政府の戦いという二本で進行する。これがそもそも余り噛み合っていない。
他にも細かい所で色々と気になる所があった。スポッツと間違えたあの白骨死体の犬は一体何だったのか?あるいは、終盤になって突然判明する”ある秘密”のご都合主義。これには閉口させられてしまった。幾らなんでも少しは伏線を張っておくべきであろう。乱暴すぎる。
かように映像の面白さに比べると、お話自体はお世辞にもよく出来ていると言い難い。せっかく奇抜な舞台設定が用意されているのに、これでは残念でならない。
元々W・アンダーソンの作品というのは、余り物語性を持たないものが多い。前作の「グランド~」は例外で、それ以外はほとんどドラマが薄みで、何かテーマを大上段に訴えるようなこともしない。このあたりが彼の作品の唯一の弱点だと思うのだが、それが今作でも露呈してしまったという感じだ。