爽やかに観れる女性映画の佳作。

「海街diary」(2015日)
ジャンル人間ドラマ
(あらすじ) 鎌倉の古い家に暮らす幸、佳乃、千佳の香田三姉妹。父は不倫の末に家を出て行き、その後母も再婚してしまい、この家に住むのは3人だけだった。ある日、父の訃報が届く。父の不倫相手も既に他界しており、最後は3人目の結婚相手に看取られて亡くなった。葬儀に参加した三姉妹は、そこで腹違いの妹すずと出会う。父が亡くなり身寄りと呼べるのは血のつながりのない義母だけとなってしまった彼女に三姉妹は鎌倉で一緒に暮らさないかと誘うのだが‥。
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(レビュー) 吉田秋生の同名コミックの実写映像化作品。
監督・脚本は是枝裕和。実は、氏は昔からこの原作のファンだったということだ。おそらく相当強い思い入れで今作を撮り上げたのだろう。その意欲は映像から十分伝わってきた。
是枝監督の特徴と言えば、ドキュメンタリズムに拠った社会派的な作品というイメージがある。「誰も知らない」(2004日)や「DISTANSE/ディスタンス」(2001日)等、初期時代の作品にその特徴はよく見られる。
その一方で、娯楽的な要素を含んだホームドラマも、氏のもう一つの特徴のように思う。「花よりもなほ」(2006日)や
「歩いても 歩いても」(2007日)、
「そして父になる」(2013日)等がその例と言える。
こうした作家性の観点から言うと、本作は後者に分類される作品だと思う。姉妹たち夫々の絆と成長を描いた、実によく出来たホームドラマとなっている。
演出は手堅くまとめられていると思った。惜しむらくは、少し大仰に映る場面があったことか…。三姉妹が乗る電車に向ってすずが手を振って走るというシーンは、感傷的で少し鼻についた。しかし、これ以外は特に不自然に感じる所もなく、安定した手腕を見せている。
色々と心に染みるエピソードがあるが、個人的に一番面白かったのは梅酒にまつわる一連のエピソードだった。
香田家の庭には梅の木があり、毎年それを使って梅酒を作っている。新しく姉妹の輪に加わったすずもそれに協力することになるのだが、彼女は中学生なので当然梅酒は飲めない。しかし、間違ってそれを飲んでしまい酔っぱらってしまうのだ。このシーンは実に愉快だった。
また、この梅酒を使った母のエピソードも素晴らしかった。
長年姉妹を放ったらしにしていた母が、法要で突然帰ってくる。母親代わりを務めてきた長女・幸は彼女を憎んでおり、顔を合わせるとすぐに喧嘩をしてしまう。そんな二人がそれまでの遺恨を払拭して母娘の絆を取り戻していくのだが、ここでこの梅酒が良い働きを見せる。この使い方も抜群に上手かった。
また、本作は香田姉妹の群像ドラマとして見ても大変味わい深い。夫々の個性を上手くピックアップして、鑑賞感を豊饒な物にしている。
例えば、彼女たちには夫々に恋人がいるが、その関係も三者三様で実に興味深く観ることが出来た。時々喧嘩をするのだが、そこに<女性の幸せ>という命題を織り込んだことで、ドラマがグンと奥深いものとなっている。そこが作品の鑑賞感を豊かなものにしている。
そして、最終的にはそうした問題も含め、姉妹が力を合わせて力強く生きていく…というポジティブなメッセージにまとめられている。非常に清涼感に溢れたエンディングで、後味も良い。
このように全体的に肩の力を抜いて観ることが出来る娯楽作として、実に良質に仕上がっていると思う。他の是枝作品のような重苦しさがないので大変見やすい映画である。万人にお勧めできる。
キャストでは、すず役を演じた広瀬すずの演技が印象に残った。劇中では具体的には描かれていないが、その生い立ちから言って、おそらくこのキャラには相当辛い過去があったと想像できる。しかし、そんな”影”を微塵も見せず、ひたすら輝いた笑顔を見せてくれる所に愛おしさを覚えた。また、序盤と後半のコントラストを利かせたレンジの広い演技も良い。
他に、食堂の女店主役の風吹ジュンも良い味を出していた。すずを評して”宝物”と言うクダリは、彼女自身のバックストーリーを想像すると非常に泣けてくるセリフである。
一方、本作は徹頭徹尾女性映画ということもあり男優陣について不満が残った。特にリリー・フランキーはミスキャストという気がした。昨今、彼のアクの強い演技を観ているせいで、どうしても何か腹に一物持った怪しい男…という風に見えてしまった。