フジテレビの映画参画はここから始まった。
「御用金」(1969日)
ジャンルアクション・ジャンルサスペンス
(あらすじ) 鯖江藩領内の漁村で、すべての村民が忽然と姿を消すという事件が起こった。人々はこれを“神隠し”と呼んで恐れた。それから三年後、江戸にいた脇坂孫兵衛は鯖江藩士たちに襲われる。実は、三年前の”神隠し”を起こしたのは財政難にあえいだ鯖江藩士で、彼らは難破した船から御用金を横領するために村民たちの口を封じたのである。当時の藩士・孫兵衛はそれを目撃しており、今になって彼の命も狙われることになったのである。孫兵衛は鯖江藩の家老で義兄の六郷帯刀の元を訪ねるのだが‥。
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(レビュー) 藩士の蛮行を阻止出来なかった浪人の後悔と戦いをドラマチックな展開で描いたアクション時代劇。
当時フジテレビの社員だった五社英雄が監督、共同脚本を務めた作品で、フジテレビが初めて映画に進出した記念碑的作品である。
孫兵衛役は仲代達矢、帯刀役は丹波哲郎、謎の刺客・藤巻は北大路欣也。錚々たる面子が揃った本格的なスター時代劇で、テレビで磨き上げた五社監督の活き活きとした演出もケレンミタップリで大変面白い時代劇となっている。
特に、孫兵衛が妻に向かって自分の胸の内を吐露するシーンは必見。
彼はかつて藩士だった頃に、村人たちを見殺しにしてしまったことを深く後悔している。そんな蛮行が再び行われようとしているのを知って敢然と立ち上がる。その覚悟がこの場面で切々と語られている。
「自分はあの時に死んだ。だから自分は生きるために鯖江へ戻る。」
仲代達矢の説得力のある風体、語りが実に素晴らしく、その演技に引き込まれた。
また、藤巻を演じた北大路欣也の役所も中々に良い。金の匂いを嗅ぎつける素浪人であり、孫兵衛にとっては味方にも敵にもなる曲者である。この変わり身の早さが、このキャラを際立たせている。しかも、その素性は後半に入って明かされるのだが、ここでの孫兵衛との共闘も実に格好良かった。
五社監督の演出は、かなりアヴァンギャルドな面があるが、基本的にはオーソドックスにまとめられている。冒頭の浅丘ルリ子の視線で描くシーンは、照明や画額、音響等に独自のアーティスティックなセンスが感じられた。クライマックスの孫兵衛と帯刀の対決シーンにおける一種異様な雰囲気作りも素晴らしい。太鼓のBGMが迫力を増している。
更に、時折見せる寒々しい海の風景、雪原といったロケシーンも映画をダイナミックに見せている。テレビでは決して味わえない映画ならではの深みを与えていた。
一方、編集の粗さや、意味のないズームアップ、シナリオ的にかなり強引な個所もあり、そこはマイナスである。
例えば、序盤の昼の祭りのシーンから突然夜のシーンに切り替わる所は乱雑な編集だ。また、雪穴に落とされた孫兵衛があっけなくそこから脱出するのもちょっと強引すぎる展開と感じた。