身の毛もよだつ青春ホラーの新たなる傑作!
「RAW 少女のめざめ」(2017仏ベルギー)
ジャンルホラー・ジャンル青春ドラマ
(あらすじ) ベジタリアンの少女ジュスティーヌは、姉のアレックスが通う獣医科大学に進学する。初めての寮生活で不安になる彼女を待っていたのは上級生たちによる手荒い歓迎の儀式だった。そんなある日、ジュスティーヌは儀式の一環として、うさぎの生の腎臓を強制的に食べさせられてしまう。それ以来、彼女は急に肉を食べれるようになり…。
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(レビュー) 少女の身の毛もよだつ恐ろしい”秘密”を過激な残酷描写を交えて描いた青春ホラー。
かなり変わった映画で、いわゆるアメリカのティーンズ・ホラー・ムービーとは大分趣を異にする映画である。主人公ジュスティーヌに「キャリー」(1976米)のS・スペイセクを重ねて見ることもできるが、こちらは徐々に怪物化、つまり”覚醒”化していくのが恐ろしい。その”覚醒”とは、ずばりカニバリズムである。何ともジメっとしたホラー映画である。
ジュスティーヌの”覚醒”を促す存在として、この映画は姉のアレックスを登場させている。二人は一人の青年を巡って対立していくようになるのだが、まさに食うか食われるかの醜い争いにまで発展していく。この姉妹の対立が本ドラマのホラー要素の大きな幹となっている。
監督・脚本はこれが長編デビュー作となるジュリア・デュクルノー。
まず、ストーリーの方は緊密に構成されていて大変感心させられた。
映画は何の説明もなくショッキングなシーンから始まる。一体それが何なのかは中盤で判明する。それは、この姉妹の恐るべき血縁、習性というものを端的に表しており、なるほどと思える上手い構成になっている。
また、ジュスティーヌが自身の中に芽生えるカニバリズムに対する嫌悪感や恐怖も丁寧にトレースされており、その心理にも自然と寄り添いながら映画を観ることが出来た。
そして、アレックスのジュスティーヌに対するコンプレックスも明確に描かれており、2人が対立していく過程にも十分の説得力が感じられた。特に、アレックスの指が…というシーンは、少しブラックユーモアも入っているのだが、同時に彼女が流した涙の意味を考えると何だか彼女たちのことが可哀そうに思えてしまった。
一方で、獣医化大学のノリがまるで体育会系で、これには少し違和感を持ってしまった。日本とは違うのかもしれないが、フランスの大学はこういうのが当たり前なのだろうか?
演出は総じてスタイリッシュに傾倒している。静かなトーンと激しいトーンのメリハリも上手くつけられており、新人とは思えぬ力量に感心させられた。決して予算が潤沢とはいえない中で、色々と工夫を凝らして撮影されていたと思う。
また、残酷なシーンも臆せずダイレクトに写して見せるので、そこには監督の気概も感じられた。普通であれば躊躇するような場面も容赦なく描写している。そもそもカニバリズムを”性徴”と共鳴させるという発想からして、常人では考え付かないアイディアである、スカトロジーな描写も出てくるし、嘔吐シーンにはマルキ・ド・サド的SM趣味も伺え、この新人監督は相当のマニアックな趣味をしているな…と思った。
しかし、だからと言って今作が単なる露悪趣味な変態映画というわけではない。ペンキを全身に浴びたラブシーンなどにはアーティスティックな感性も伺え、この監督にはハイブリッドな作家性を持っていると思う。
更に、ユーモアのセンスもそこかしこに見られる。例えば、新入生は儀式として上級生から全身に動物の血を浴びせられるのだが、その後彼らは着替えることなく、そのままの姿で授業を受ける。まるで何事もなかったように全員が血まみれの白衣で授業を受けるのだ。この人を食った演出は何とも言えぬ可笑しさを生んでいる。
このように今回の作品を観たかぎり、ジュリア・デュクルノーは中々一筋縄ではいかない、大変クセを持った監督であることが分かる。今後の活躍にはぜひとも注目したいと思った。
キャスト陣では主演のギャランス・マリリエの身体を張った熱演が素晴らしかった。本作が長編デビューということである。余りにもインパクトのある役なので、今後の活動にどう作用していくか、心配でもあり楽しみでもある。