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トスカーナの贋作

嘘か真か?煙に巻かれるミステリアスな大人のロマンス。

「トスカーナの贋作」(2010仏伊)星3
ジャンルロマンス
(あらすじ)
 イタリアの南トスカーナの小さな村。美術品の贋作に関する本を書いたイギリス人作家ジェームズの講演が開催されていた。そこに地元でギャラリーを開いているシングルマザーの女が聞きにやって来る。二人は講演の終了後、ギャラリーで落ち合いドライブへと繰り出すのだが…。

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(レビュー)
 旅先で出会った男女のアバンチュールを不思議なテイストで綴ったロマンス作品。

 最初はこの二人のことを赤の他人だと思って見ていたのだが、途中から「あれ?」となった。というのも、二人が立ち寄るカフェのシーンで、彼らは店の主人に夫婦と間違われるのだ。ここから二人は旧知の仲のように思い出話を始める。もしかしたらこの二人は元夫婦だったのではないか?と思えてくるのだ。

 その後、彼らは観光中の老夫婦に出会う。ここで二人は完全に自分たちが夫婦であるかのように、その老夫婦と会話を交わす。

 更に、その後2人はレストランに立ち寄るのだが、ここではまるで夫婦喧嘩のような言い争いを始める。

 最初は只の行きずりの男女かと思って見ていると、どんどん本物の夫婦のようになっていく所が何とも不思議な映画である。

 監督・脚本はA・キアロスタミ。数々の児童映画で名を馳せ、故国イランの社会背景を問題提起しながら”戦う”創作姿勢を貫いてきた名匠である。そんな彼がこのような、ある種実験的な作品を撮っていたということは驚きである。少なくとも自分が観てきた過去の作品とは全く趣を異にする摩訶不思議な作品だった。

 ただ、キアロスタミがこの映画で描きたかったことは何なのか?ということを考えた時に、一つの想像はできる。

 この夫婦と思しき、あるいは夫婦”ごっこ”を演じている男女は、つまり夫婦という物の”贋作”なのではないだろうか。
 本物と贋作の違いはどこにあるのか?そもそも二つを区別する意味はあるのだろうか?キアロスタミは、この曖昧なカップルを通して観ている我々に、こう問いかけたかったのではないだろうか。

 ジェームズが書いた本のタイトルは「本物より美しき贋作」である。外見上、本物と瓜二つでほぼ見分けがつかない精巧な贋作を本物と区別する意味はどこにあるのか?この本のタイトルからは、そんな皮肉めいた主題が想像できる。本作のテーマも正にそこだろうと思う。

 世の中には嘘が真実になることもあれば、逆に真実が嘘になることもある。果たして真実と嘘をどこで見極めればいいのか?そんな曖昧な現代社会をこの映画は一組のカップルを通して我々に示しているのではないだろうか。
 知的好奇心をくすぐる作品でとても面白かった。

 尚、映像で面白いと思ったカットが2か所ある。
 一つ目は、2人が有名な彫刻を見るために立ち寄った小さな広場のシーン。壁に無造作に放置された姿鏡と手前のバイクのサイドミラーに、女性が老夫婦と会話する姿を同時に映すカメラワークが出色である。画面の遊び方が面白い。

 もう一つは、ラストカットである。二人はホテルの寝室に入り、ジェームズは帰りの飛行機に乗るか乗るまいかで悩む。この時、窓の外で教会の鐘の音が鳴り、映画はそのままフェードアウトして終わる。もしかしたらここから二人の本当の恋が始まるのかもしれない…と思わせる中々洒落たラストカットで印象に残った。

 キャストでは、ジェームズ役のウィリアム・シメルが中々良かった。彼は本業はオペラ歌手で今回が映画初出演ということである。中々どうして演技はこなれていると思った。
 一方、女主人公を演じたJ・ピノシュはベテランらしく流石に演技は上手いが、いかんせん力が入り過ぎており、ややもすると頭のイカレた下世話な女…という風に見えなくもない。好き嫌いがハッキリ分かれそうな演技である。もう少し肩の力を抜いて演じた方が良かったのではないかと思った。
[ 2018/08/21 00:43 ] ジャンルロマンス | TB(0) | CM(0)

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