和製エクソシストと言われた異色の難病ドラマ。
「震える舌」(1980日)
ジャンルホラー・ジャンル人間ドラマ
(あらすじ) 平和な暮らしを送る三好家に、ある日突然不幸な出来事が起こる。泥遊びをしていた幼い一人娘・昌子が破傷風にかかり生死の淵に立たされてしまったのだ。懸命に看護する両親の思いもむなしく、入院先で昌子は日に日に弱っていく。
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(レビュー) 破傷風にかかった少女の闘病生活を緊張感みなぎるタッチで描いた異色の難病ドラマ。
尚、破傷風は実際にある病気で、劇中でも紹介されているが、子供がかかると非常に高い確率で死に至るということである。日本では余り見なくなったが、途上国では今でも感染例があるという。
本作には原作があり(未読)、作者の娘さんが実際に破傷風にかかったことを元にして書かれた小説だそうである。
映画公開時からかなり話題になったこともあり、本作は今もってカルト映画扱いされている怪作である。普通この手の難病モノであればちょっと泣ける話的な映画を想像してしまうが、本作はまるでホラー映画のようなテイストで全編が覆われており一種独特な”映像”作品となっている。
この独特のテイストを作り上げたのは、共同製作・監督を務めた名匠・野村芳太郎である。野村芳太郎自身、元々はこういうタッチの作家ではない。シリアスな人間ドラマからコメディ、社会派ドラマとかなりフィールドワークの広い活動をしている監督であるが、しかし本作のような禍々しい作風は珍しい。これもまた氏のカラーなのだろう。
例えば、破傷風にかかると光や大きな音といった”刺激”は厳禁である。それが原因で”ひきつけ”を起こしてしまうからだ。そのため昌子は暗幕で締められた真っ暗な部屋で安静状態に置かれている。ところが、多くの患者が一緒に過ごしている病院でまったく音を立てないとうのは流石に無理である。何かの拍子で大きな音がすると、途端に昌子は奇声を上げて体をエビぞりにして痙攣を起こしてしまうのだ。口を血まみれにして悶えるその姿は、その辺のホラー映画顔負けの恐ろしさがある。
淡々と紡ぐドキュメント・タッチも映画に異様な雰囲気をもたらしている。キャラクターへの感情移入を拒むような作りで、観客は昌子と両親の行く末をただ見守ることだけしかできず、もどかしくも重苦しい雰囲気で映画全体が包まれている。
普通であればこうした難病モノのドラマであれば、どこかで両親の無償の愛とか、医師の献身的な治療といった美談めいた場面を入れるだろうが、本作にはそういったメロウさは微塵もない。
むしろ、両親は自分も破傷風に感染したのではないか?と自分の身を案ずるし、看護の疲労から互いを責めあい、寝ている娘の前で醜い夫婦喧嘩まで始めてしまう。
担当医師にいたっては、両親に何の説明もせずに黙々と治療を施していくだけで、その姿勢は見方によっては事務的で冷酷にすら映る。
ここまで冷徹に難病物を描いた作品もそうそうないだろう。一連のホラー映画的な映像演出も含め、ある意味では見世物映画という見方も出来てしまう。しかし、逆に言えばこれほど挑戦的な映画もそうそうないだろう。
また、本作はキャスト陣の熱演も見逃せない。
まず何と言っても昌子を演じた子役が凄まじい。その真に迫った演技は、悪魔にとりつかれた「エクソシスト」(1973米)のリンダ・ブレアを凌駕するほどである。残念ながら彼女は本作1本のみで女優としてのキャリアを終えてしまっている。
父親役の渡瀬恒彦、母親役十朱幸代も夫々に素晴らしい熱演を見せている。ただし、疲弊したメイクがやたらと濃いのはご愛嬌といったところか…。