結構ドキリとさせるパーティーシーンが秀逸!
「ザ・スクエア 思いやりの聖域」(2017スウェーデン独仏デンマーク)
ジャンル人間ドラマ・ジャンルコメディ
(あらすじ) クリスティアンは有名美術館のキュレーターをしている。次の展覧会に向けて彼は人々の思いやりをテーマにした展示物“ザ・スクエア”を発表する。そんなある日、クリスティアンは道端で思わぬトラブルに巻き込まれて携帯と財布を盗まれてしまう。盗まれた物を取り戻すために彼はある行動に出るのだが…。
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(レビュー) 人間の思いやりと寛容の精神を痛烈に風刺したシニカル・コメディ。
コメディとは言っても爆笑する類のコメディではない。どちらかと言うとブラック・コメディに近いタイプの作品である。
監督・脚本はリューベン・オストルンド。前作「フレンチアルプスで起きたこと」(2014スウェーデンノルウェー仏デンマーク)で注目を浴びた気鋭の作家である。残念がら自分は前作を観てないのだが、本作のアーティスティックな感性には強く惹かれた。かなり独特で中々の才人という感じがした。尚、彼は今回編集も務めている。絶妙な間の取り方、音の使い方にも面白さを感じた。
劇中では格差社会、SNSの功罪、マスコミの商業主義といった現代社会の問題が取り上げられている。決して大上段に物申すというわけではなく、上手くストーリーの中に織り込んでいるのが良い。自然と作品が発するメッセージを受け取ることが出来た。
例えば、主人公クリスティアンは現代アートを分かったような顔で語るエセ文化人で、美術館経営の手腕もからっきしである。更に、離れて暮らす二人の娘に対して何一つ父親らしいことをしてやれないダメ男である。その彼が、あるトラブルをきっかけにアートの世界から見放され、あれよあれよという間に悪夢のような世界に迷い込んでしまうのだが、その過程が一々気が利いていて面白い。
アートの世界をどこか達観した眼差しで描いている。結局アートも人間が価値を決める以上、時代や事件、時の巡り合わせでいくらでも変わるものであり決して永遠不滅の物ではない。果たしてアートに価値を求めることにどれだけの意味があるのか?そんなメッセージが感じられた。
また、本作には度々ホームレスが登場してくるが、彼らに対する通行人の無関心も、非情な言い方かもしれないがこれが”現実”というほかない。格差社会は日本よりもスウェーデンの方が深刻なのかもしれない。もし自分がその場にいたらどうするだろう?と考えさせられた。
後半のクリスティアンに対するマスコミの攻撃。ネットの炎上なども正に現代社会の象徴と言えよう。実にイヤらしい描き方をしている。
このように本作には様々な現代社会の風刺が込められており、それが時にドキリとさせたり、時に居心地の悪さを味あわせたり、時に何とも言えないやり場のない怒りを起こさせたりする。見終わった後にはひどくビターな鑑賞感が残る。
また、本作は主人公のクリスティアンを単なる俗物として描かなかった点も上手いと思った。
彼はホームレスを憐れみ、困った人を助ける優しさを持っている。しかし、それはバカが付くほどの優しさではない。サンドウィッチを要求するホームレスに対してクリスティアンは玉ねぎ入りのサンドウィッチを投げつける。ホームレスは玉ねぎ抜きを要求したにも関わらずだ。
この辺りがキャラクターのリアリティを生んでいる。これがどこまでもお人好しな人間だったら共感を得られなかっただろう。
一方、彼の周囲に集うサブキャラに関してはややカリカチュアが強めに造形されている。彼らがこの映画をコメディへ持っていく役割を持たされているような気がして少し気になったが、映画全体のバランスを考えればシリアスなクリスティアンとの間で絶妙なバランスが取れていると思った。
本作で不満に思ったことは、少し無駄なシーンが多かったことである。正直、今一つ意味が読み解けないシーンもあり、ストーリー的にも大して意味がないと思うような箇所がいくつもあった。
特に、クリスティアンとインタビュアーの情事はもっとコンパクトにまとめられるような気がした。本作は全体で2時間半の作品であるが、この辺りを削れれば2時間程度にはまとめられそうである。