恐怖のサバイバルゲームを息苦しいほどの演出で描いた傑作!
「ブラボー小隊/恐怖の脱出」(1981米)
ジャンルアクション・ジャンルサスペンス
(あらすじ) ルイジアナ州兵の小隊が訓練中に湿地帯に迷い込んでしまった。些細な出来事から小隊はケイジャンと呼ばれる先住民から攻撃を受ける。その結果、隊長が射殺され、彼らは慣れない土地を逃げ惑うことになる。その最中、小隊はケイジャンの漁師に遭遇し、彼を殺人容疑で連行することにするのだが‥。
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(レビュー) 州兵部隊の恐怖の体験をハードなアクションで綴ったサスペンス作品。
監督・共同脚本はW・ヒル。現在でも現役で活躍する名匠であるが、彼の脂が乗り切っていた頃のアクション演出を堪能できるという意味ではファン垂涎の傑作となっている。
物語はいたってシンプルである。森の中で訓練していた州兵小隊が、隊員のちょっとした悪戯から先住民であるケイジャンから復讐される‥というストーリーである。しかし、このシンプルなプロットの中には、入植者の驕り、自然界における人間の非力さ、争いの無情さといった深遠なテーマが隠されている。そこを噛みしめることが出来れば、中々の歯ごたえが感じられる作品となろう。
また、小隊は9名の兵士で構成されているのだが、その人間関係がスリリングに描けていて、シナリオも中々よく出来ていると思った。最初はやや人数が多すぎるという気がしたが、映画が進むうちに徐々に個性がはっきりと出てくるようになり、このあたり人物の描き分けが見事である。
例えば、コーチと呼ばれる男と彼を慕う若い青年、主演であるキース・キャラダイン演じる男とテキサスからやって来た新参者。こうしたキャラクターの相関を押さえた展開は、ストーリーを転がす上での大きな推進力となっている。夫々の衝突と協力がドラマを面白く見せている。
ただし、キース・キャラダインは周囲に比べるとキャラの押しがやや大人しく、序盤の展開はかなり”ぼんやり”とした印象である。実際には彼が主役なのだが、彼がストーリーの表舞台に頭角を表すのは映画中盤に差し掛かってからであり、それまでは一体誰の視座でストーリーを追いかけて良いのか分からず戸惑いを覚えた。できることなら最初から彼の主役としての立ち位置をしっかりと明確にした方が良かったのではないだろうか。
映画中盤からいよいよ小隊は窮地に追い込まれ、一人また一人とケイジャンの攻撃で倒れていく。このあたりはまるでホラー映画のような恐怖演出でかなり恐ろしかった。
例えば、木に吊るされた兎の死骸や、地面の並べられた鉄製の罠といった不気味な小道具の使い方。これらなどは追い詰められる隊員たちの恐怖を上手く盛り上げていた。
また、追いかけてくるケイジャンの姿をはっきりと見せない演出も非常にホラー的だ。相手の顔や表情が分からないことほど恐ろしいものはない。
こうして小隊は命からがら何とか森を抜け出すことに成功するのだが、しかし映画はそこで終わらない。もう1段階、恐怖が待ち受けているのだ。彼らが逃げ込んだ先は…というのも非常に恐ろしい。このどんでん返しもホラー映画の常套である。
そして迎えるラスト。観た人の中には、果たしてこれを素直にハッピーエンドと取っていいものかどうか戸惑うだろう。現に自分も煮え切らない印象を受けた。普通に考えれば助かってハッピーエンドのはずである。しかし、何故か不穏なトーンで撮られているのだ。どうしてこのような演出になったのだろうか?ここからは想像である。
おそらく生き残った兵士たちは、この後に本格的な戦場へ送られることになるだろう。そこでは本物の殺戮の世界が待ち受けている。今回のような、言ってしまえば”サバイバル・ゲーム”の延長線上で行われているような小さな”戦争”ではない。もっとたくさんの銃弾が飛び交い、たくさんの人間が犠牲になる大きな”戦争”だ。果たして、彼らはそこで生き延びることが出来るのだろうか?
ラストの不穏なトーンは、そんな兵士たちの心の声を代弁しているような気がした。現に助かった兵士たちは皆、戦争はもうこりごりだ‥とでも言いたそうな表情をしていた。自分はそれを見て何だか彼らのことが不憫に思えてしまった。
この不穏なラストがあることで、この映画は数多あるアクション映画から頭一つ抜きんでた”印象深い”作品になっていると思う。