子供向けではあるけれど大人にも目くばせした作りが侮りがたし。
「若おかみは小学生!」(2018日)
ジャンルアニメーション・ジャンル青春ドラマ・ジャンルファタジー
(あらすじ) 交通事故で両親を亡くした小学6年生の“おっこ”こと関織子は、祖母が経営する温泉旅館“春の屋”に引き取られ、若おかみとして修業をすることになる。そこでおっこはユーレイのウリ坊と出会う。祖母の幼馴染だと言うウリ坊に支えられながら、おっこは少しずつ若おかみとしての修業に励んでいくのだが…。
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(レビュー) 同名の児童文学(未読)を映像化したアニメーション作品。同年にテレビアニメとしてシリーズ化されたが、そちらは未見である。しかし、観てなくても映画単体として十分楽しく観ることが出来た。
非常に清々しい作品である。喪の仕事を描くドラマであると同時に成長ドラマとしてもよく出来ていると思った。
小学6年生のおっこの奮闘記は、周囲の人間たち、ユーレイや妖怪との関係から楽しく描かれている。そして、最後にはホロリとさせる展開も用意されており、親子そろって安心して観ることが出来る良作になっている。
監督は「茄子 アンダルシアの夏」(2003日)、「茄子 スーツケースの渡り鳥」(2007日)の高坂季太郎。この2本は青年誌の原作を元にしたアニメーションでやや大人向けの作品だったが、今回は児童文学が原作ということもあり、これまでとはカラーが違う作品となっている。しかし、カラーは違えど作りは大変丁寧でクオリティも非常に高い。春の屋の客の一人、グローリー・水領のバックストーリーなどはちょっと大人向けな味付けになっておりドキリとさせたりもする。
脚本は吉田玲子。アニメ界ではもはや重鎮と呼べる名ライターで過去には
「けいおん!」(2011日) や
「ガールズ&パンツァー劇場版」(2015日)といった人気作品を手掛けている。この2作品に関してはシナリオで魅せるような映画ではなく、どちらかというとその前段に当たるテレビシリーズを観た人に向けに作られた、言ってしまえばファン・サービスのような作品になっていた。正直、シナリオ自体はかなり歪な作りだった。
それに対して今回は初見さんにも理解しやすいように作られており、1本のドラマとしてしっかりと構成されている。
まず、春の屋に訪れる客たちとおっこのやりとりが3部構成で描かれている。
最初は、おっこと同じ境遇にある少年とのエピソード。二つ目は、失恋した年上の女性とのエピソード。三つめはネタバレを避けるために詳しくは書かないが、おっこと因縁にある一家とのエピソードである。おっこが成長する上では夫々のエピソードに夫々の意味があり、彼らとの交流を通して両親の事故死という悲しみから立ち上がっていくことになる。ドラマとして実に巧妙に組み立てられている。
また、アニメーションならではの作画演出も大変魅力的だった。
祖母の幼馴染であるウリ坊、ライバル旅館の一人娘でおっこの同級生・真月に所縁のある美陽、旅館の押し入れに眠っていた小鬼の鈴鬼。ユーレイや妖怪といったキャラクターたちがこの物語にファンタジーの要素を持ち込んでいる。彼らがアニメならではの表現で画面を賑わせる所も本作の大きな魅力となっている。
また、こいのぼりのシーンなどは、アニメでしか表現できな光景でとてもダイナミックだった。
本作はこうしたキャラクターや映像演出が大変上手く作られていた。
確かに物語が終盤にかけて予定調和な感じを受けたが、しかしこのベタさはむしろ大衆向け作品としてみれば実に用意周到に出来ているとも言える。実に隙がない作りで感心させられた。
一つだけ不満を述べるとすれば、ウリ坊たちユーレイの退場の仕方であろうか…。彼らは夫々にこの世に未練があって旅立てないでいる。それがおっこと出会うことで浄化され、やがておっこと同じように旅立っていくという終わり方になっている。しかし、果たしてこれで本当に良かったのだろうか?そもそもウリ坊は祖母と、美陽は真月との関係を何も解決できないままである。そこだけがスッキリしなかった。