圧巻のクライマックスはぜひスクリーンで!
「ボヘミアン・ラプソディ」(2018英米)
ジャンル人間ドラマ・ジャンル音楽
(あらすじ) 複雑な生い立ちや容姿へのコンプレックスを抱えた孤独な若者フレディ・マーキュリーは、ブライアン・メイ、ロジャー・テイラーたちと出会い、バンド“クイーン”を結成する。場末を巡業した後、自主製作したレコードが有名プロデューサの目に留まりメジャーデビューを果たす。発売されたレコードは瞬く間にヒットチャートを駆け上り、クイーンは世界的なロックバンドへと成長していくのだが…。
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(レビュー) 世界的なロックバンド”クイーン”のヴォーカリスト、フレディ・マーキュリーの半生を描いた音楽伝記映画。
フレディがエイズで亡くなったのは1991年。自分は当時それほどクイーンにハマっていたわけではなかったが、それでもこの訃報には驚いた。その後、クイーンの楽曲を聴くようになり、今となっては彼らの曲が大好きになった。
本作にはそんな彼らの曲がバンバン流れてくる。ファンであればきっと楽しめるだろう。
ドラマとして観た場合も、フレディの生い立ちや人生が分かりやすくまとめられていると思った。彼のことを知らない人でも、これを観ればフレディの人となりを十分理解できるように作られている。
とはいえ、ストーリーは割と淡々と進むので、全体的に底の浅さが気になってしまう。
例えば、フレディの人物形成の最も根幹を成す出自については物語の最初と最後で触れられるだけで、その間は特に問題とならない。また、フレディと他のメンバーの関係も形骸的で、出来ればこのあたりももっと深く掘り下げて欲しかった。
ドラマが本格的に始動するのは、フレディが恋人のメアリーと破綻するあたりからである。その辺りから徐々に重苦しい雰囲気に包まれていくようになる。
他にも、別のレコード会社から引き抜きにあったり、酒とドラッグに溺れたりと、この辺りはミュージシャン映画には付き物のトラブルであるが、そうした様々な”障害”がフレディの人生を追い詰めていくようになる。
そんな中、最も印象に残ったシーンは、フレディがメアリーに電話するシーンである。すでにこの時2人は別居状態にあり、目と鼻の先で暮らしている。窓を覗けばお互いの顔が見えるほど近い。フレディは電話口のメアリーに向ってシャンパンで一緒に乾杯してくれと言う。しかし、メアリーは窓から離れて声だけでそれに応対する。この時の寂しそうな二人の表情が破局の悲しみを物語っていて切なくさせられた。
自伝なので、それ以上でもそれ以下でもないと言えばそれまでだが、この辺りの二人の関係をもっと深く突きつけて行けば更にドラマチックな映画になったように思う。
ただ、こうしたストーリー的な底の浅さはあるにせよ、クライマックスのライヴシーン。これを観てしまえば全てが吹き飛んでしまう。
本作の肝はやはりこのライブエイドを再現したライヴシーンであろう。スケール感のある迫力のある音と映像に鳥肌が立ってしまった。
キャストの好演も素晴らしい。
特に、フレディを演じたラミ・マレックの熱演は特筆に値する。これだけ多くの人から愛される有名人となると演じる方もかなりのプレッシャーがかかったろうが、パフォーマンス自体はフレディの特徴をよく掴んでいると思った。さすがにあの歌声は再現できないため、そこは大半が吹き替えだそうだが、堂々たる”なりきり”演技である。
尚、本作は監督としてブライアン・シンガーの名前がクレジットされている。しかし、彼は撮影の半ば降板してしまった。代わりに監督を任されたのが製作総指揮に名を連ねているデクスター・フレッチャーである。今回の交代劇については様々な言われ方をしているが、いずれにせよ製作の危機に立たされながらよくぞ完成までこぎつけた…と感心する。
実は、デクスター・フレッチャーは俳優業もしていて、かの「ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ」(1998英)を初め、様々な映画で名バイプレイヤー振りを発揮している。非常に特徴的な顔立ちをしているので、きっと一度見れば忘れることはないだろう。それくらいアクが強い。そんな彼が本作の危機を救ったというのだから、何とも感慨深いものがある。
尚、フレッチャーの次回の監督作は、これまたイギリスのミュージシャン、エルトン・ジョンの映画だそうである。どんな内容になるのか今から楽しみにして待ちたい。