不穏なトーンが持続する前半に惹きつけられる。
「ヘレディタリー/継承」(2018米)
ジャンルホラー
(あらすじ) グラハム家の祖母エレンが亡くなり、娘のアニーは夫のスティーブに支えられながら高校生の息子ピーターと13歳の娘チャーリーと静かに暮らしていた。ある日チャーリーが異常な行動をとり始める。心配するアニーだったが、自分もミニチュア・アートの仕事を抱えていてそれどころではなかった。あの晩、ピーターがパーティに出かけることになり、アニーはチャーリーも連れていくように言うのだが…。
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(レビュー) ある一家にまつわる恐怖を静謐なタッチで描いたオカルトホラー。
淡々とした作風なので見る人によっては退屈してしまうかもしれない。しかし、ジックリと恐怖を味わいたい人にはたまらない作品だろう。現に自分も前半はかなり惹きつけられた。
特に、チャーリーの存在感が抜群に良い。ちょっと年齢不詳なビジュアルも含め大変目立っていた。そして、おそらく彼女をメインに話が進んでいくんだろうな…と思っていたところで、彼女は”ある悲劇的な事故”によって退場してしまう。これはかなり衝撃的だった。ここでのピーターのリアクションも生々しくて良い。
監督・脚本はこれが長編デビュー作となるアリ・アスター。アメリカのホラー作家らしからぬ、寒い方の”クール”な演出は中々堂に入ってる。どことなくヨーロッパ映画的な沈殿したトーンが良い味を出している。しかも、それだけではない。前述のチャーリーの悲劇的事件のようなショッキングな演出も突如繰り出してくる。観客を実にイヤ~な気持ちにさせてくれるという意味ではミヒャエル・ハネケに通じる物を持っていると感じた。
ただ、個人的にこの映画は終盤に行くにつれて興が削がれてしまう。一家の中で起こる霊的現象を中心に話が展開し、割と普通のオカルト映画になってしまっている。
アニーはセラピーで謎の中年女性に出会い、彼女から降霊術を教わる。そんなに簡単に霊を呼び出せるのか…という感じもするし、それを目の当たりにしたピーターのリアクションにも苦笑せざるを得なかった。
また、終盤に入って来ると”こけおどし”的なショック演出も増えてくるので陳腐に見えてしまう。例えば、ピーターが何者かに襲われる悪夢を見たり、アニーが虫の大群の悪夢を見たり等。
ヘンな話、日常に潜む怖さ。例えば、Jホラー的と言っても良いだろう。深夜にうっすらと人影が見えたり、チャーリーの癖である舌を鳴らす音がどこからともなく聞こえてくるといったシーンの方が断然恐ろしい。単にビックリさせるだけの”こけおどし”的な描写に余り恐ろしさは感じない。
オチについては、何だか狐につままれた気分になったが、オカルト映画として観れば納得の結末だった。実はこのオチに至る伏線は前半で巧妙に張られていたことに気付かされ驚かされる。祖母の葬式のシーンでチャーリーを見てニヤニヤ笑っていた男がいたのだが、あれが大いなるヒントになっている。
キャストでは、アニー役のトニ・コレットの怪演が素晴らしかった。これだけ恐怖に引きつった顔芸はそうそう見れないだろう。「シャイニング」(1980英)のシェリー・デュヴァルも真っ青といったハイテンションな演技はホラー映画ファンならずとも必見である。