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ウインド・リバー

緊張感が持続するサスペンス作品。T・シェリダンの手腕に脱帽。
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「ウインド・リバー」(2017米)star4.gif
ジャンル社会派・ジャンルサスペンス
(あらすじ)
 ワイオミング州にあるネイティブアメリカンの保留地ウインド・リバー。ここで野生生物局の職員として働いている白人ハンター、コリーはある日、ネイティブアメリカンの少女の死体を発見する。彼女は親友の娘だった。FBIから新米の女性捜査官ジェーンがやって来て、早速捜査を開始する。コリーもそれに協力するようになるのだが…。

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(レビュー)
 ネイティブアメリカンの居留地で起こった事件を、地元の白人ハンターとFBI女性捜査官が捜査していく社会派サスペンス作品。

 監督、脚本は「ボーダーライン」(2015米)や「最後の追跡」(2016米)の脚本で注目されたテイラー・シェリダン。緊密に組み立てられた構成が今回も素晴らしく、最後まで息をつかせないスリリングな作品となっている。

 また、社会派的なメッセージが重厚に盛り込まれている点も評価できる。ネイティブアメリカンが辿ってきた歴史と悲惨な境遇が事件の背景から見えてくる。

 加えて、コリーのバックボーンにささやかなウェットを忍ばせており、これが鑑賞感をより一層芳醇な物にしている。エンタテインメントして上質に仕上がっており、コリーがこの事件にどんな思いで向き合っていたのかが最後に分かりホロリとさせる。

 とはいえ、非常にシビアな映画であることに間違いはない。事件の解決はみるが、これをもってハッピーエンドというわけではない。ネイティブアメリカンに付いて回る根深い問題は決してなくなることはない。このメッセージが問題提起という形でしっかりと発せられている所に作品としての真摯さを見た。

 かつて、先住民居留区を扱ったアメリカ映画は何本も製作された。そもそも先住民と白人の関係性は古き西部劇の時代からあり、例えばJ・ウェイン主演の「捜索者」(1956米)などがいい例だろう。

 最近でも、モホーク族とアメリカ人のシングルマザーの友情を描いたクライム映画「フローズン・リバー」(2008米)。孤独な中年男がオートバイの世界最速大会に挑戦する「世界最速のインディアン」(2005ニュージーランド米)。若い青年が大自然の中に生活を追い求める実話の映画化「イントゥ・ザ・ワイルド」(2007米)といった映画が作られた。そこに登場する先住民は皆、白人から財産を奪われ、外界と断絶した暮らしを送っていた。彼らは自分たちから土地と財産を奪った白人に対して一定の反感意識を持っている。

 この映画でも先住民の反感意識は見られる。事件の捜査に乗り出す白人女性警官ジェーンは、”よそ者”である。彼女と先住民の間には決して取り崩すことのできない”壁”がある。

 一方でこの土地でハンターとして働くコリーは、白人であるが、地元の人々に信頼され固い絆で結ばれている。彼はこの居留区の中では唯一の例外である。実に頼もしい”ヒーロー”と言える。

 テイラー・シェリダンの演出は実に端正にまとめられている。
 映画冒頭から緊張感のある出しで、今後の展開を期待させるオープニングで、自分は一気に画面に引き込まれた。コリーとジェーンの関係をヘンにべたつかせなかったのも見てて心地よかった。

 そして、何と言ってもクライマックスシーンにおける回想挿入のスマートさ。これが見事である。ドアをノックするという”アクション”で繋いだところにセンスを感じた。

 また、コリーの娘と被害者少女の関係を記念写真というアイテムでさりげなく明かした演出も光る。コリーがいかなる思いでこの事件に執念を燃やしていたかがよく分かるナイスな演出だった。普段はクールな彼が、ここで少しだけ涙する所にグッときてしまった。

 総じてシェリダンの演出は手練れており、脚本家としてだけでなく監督としても中々の力量を感じさせる。

 キャストでは、コリーを演じたジェレミー・レナーの渋い演技が素晴らしかった。欲を言えば、余りにもクールすぎるので少しくらい”汚れる”部分があっても良かったかもしれない。強く逞しい肉体と精神を併せ持つ、かつてのカウボーイを彷彿とさせるキャラとして造形されているのだろうが、リアリティということを考えた場合、どこかで人としての脆さは出してほしかった。
[ 2018/12/30 10:57 ] ジャンルサスペンス | TB(0) | CM(0)

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